第2章 目覚めの一日
「光秀と湖か、湖は少し待て」
信長の部屋は、なんというか…最上階
後から聞くと天主と言うらしい
(すごく景色がよく見える…)
部屋の隅で、信長と光秀が話しているのを待っていたが
なんとなく外が気になってふらりと立ち上がってしまう湖
(…なんか、ウズウズする…)
「…湖」
どちらかに呼ばれた気はするが、意思はもう景色を見たい欲求でいっぱい
(あ…鈴の声がする…)
「湖…!」
ばざっと着物が落ちる音がすると、猫がトンと畳に足をつき駆け出す
光秀の伸ばした手を、猫はするりと交わして
天主から張り出した板張りの床を駆け、屋根目掛け走っていくのだ
「まったく…面白い娘だ」
信長は着物を拾うと猫の方へ向かった
「実物は…水に映った猫より良いな」
驚きもせず光秀は呟いた
「…あれが映ったか?」
「ええ、湖が池を覗きこんだけ際、一緒に映ってましたよ」
「そうか」
猫は信長たちの手の届かない屋根上で景色を楽しんでいるようだった
「捕まえましょうか?」
「いやいい…放っておけ」
「…鈴という名だと、湖が…」
二人はもとの場所に戻り話を続けた
光秀が下がると入れ替わりで三成が、湖を探して現れた
信長は猫のことかには触れず
「あれならば上にいる」
そう外の方を指差した
三成は指された方に向かい見上げると、猫が気持ち良さそうに昼寝をしているのが見える
「…あぁ」
と頷くと、両手を差しだし
「鈴様、お戻りください」
そう言って微笑んだ
すると鈴は返事をする様に鳴き、三成の腕のなかに降りてくる
「物分かりの良い子ですね、鈴様は」
鈴は心地良さそうに静かに抱かれていた
「やはり見事です…見たことのない種ですね」
みゃーんと鳴くと撫でてほしいとばかりに頭を擦り寄せる
「三成…寄越せ」
信長は三成から猫を受けとると膝にのせ撫でた
「…南蛮の種だな。美しい毛並みだな、顔立ちも悪くない」
「左様でございますね」
鈴は立ち上がると三成の方へと向かう
「三成…なつかれたな」
「これのせいでしょう」