第10章 敵陣の姫 第三章(裏:謙信)
「ねぇ幸村、最近、佐助くんに会ってる?」
茶屋で、幸村とお団子を食べていた湖が不意に尋ねると、幸村は「んー」と返答を濁すと、お茶を飲みきって音を立てて湯飲みを置いた
「ごっそうさん、金置いとくから」
「あ、待って。幸村」
湖も、お茶を飲みきって茶屋の奥さんに挨拶し、幸村を追った
「どうしたの?幸村・・・怖い顔してるよ?」
「・・・湖、離れるなよ」
幸村は、湖の手を取ると早足で人気の少ない方へと歩いて行く
「っ・・・」
ざざっと、後ろから追ってくる音が聞える
湖は、ちらりと後ろを向けば、怪しげな男達が数人見える
「っ幸村・・・」
「大丈夫だ、心配すんな」
町外れの境内に来ると、幸村は湖を神社の中に押し込んだ
「ちょっと人数が多いんだ、しばらくじっとしてろよ」
ポンと、頭を叩くと湖の不安そうな顔が目に入る
「んな、顔すんな」
ふっと、笑うと湖の額に掠めるだけの口づけを落とす
「らしくない」
「っ・・ゆ、幸村っ」
「おう。お前は、そうじゃなきゃな、安心して待ってろ」
パタンと、戸が閉まり
湖は、閉まった戸の隙間からこっそり息を殺すように外をのぞく
幸村が少し歩くと、それを取り囲むように十人ほどの男が刀を手に取り囲んだ
(幸村っ・・・)
湖は、ただただ幸村の無事を願うだけだ
刀がぶつかる音が絶えない
幸村は、その場の誰よりも強く、相手を近づけさせない
誰が見ても幸村が優勢で、問題ないように見えた
湖は、その姿をじっと目で追い夢中になっていた
そのため、後ろからの気配に気がつけなかった
「まだやるか?!」
「・・・っ!!」
「お前ら、侍じゃないだろう・・・んな、なまくらな刀で、俺に向かってくるなんて・・・っ」
幸村の目が開く
「さ、真田っ幸村!我らは、織田信長家臣・・・っ!この娘、返してもらうぞ」
其処には、口を覆われ苦しそうに拘束される湖の姿
幸村は、先ほどとは別物のように、冷たい視線を湖を捕らえた男に向ける
「お前ら程度が家臣なら、あの男も地に落ちたもんだ・・・」
「っな!!」
「そうですねぇ・・・貴方が、織田の家臣だと言うのは・・・おかしな話です」