第9章 敵陣の姫 第二章(裏:謙信)
腕の中の湖は、ふるりと体を震わせ、両手で自分を抱きしめるように腕に手を回す
普段の湖なら、猫の姿から人に戻れば、慌てふためき恥じる
謙信は、そんな湖を見るのも楽しみの1つだった
だが、今目の前にいる湖はいつもと反応が異なる
鈴から戻ったことも
自分が裸であることも
気づいていないようだ
(この状態・・・まるで媚薬でも飲んだような・・・)
気になった謙信は、酒壺を見るが、自分にそんな効果は現れていない
「あつい・・・」
湖がそう呟く
謙信に向かい合って、肩に羽織りだけを掛けられた湖
肌は、ほんのり赤く色づき
息が乱れ、目が閏んでいる
こんな湖を見るのは初めてのことで、目が離せない
いつもほんのり香る湖の香りは、今は濃い花の匂いになり、謙信の鼻をくすぐる
「けん・・・しんさま・・・」
助けを求めるように、謙信の胸にもたれかかり、その身を預ける
ただの女であれば、どうも思わない
自分を誘惑したく肌をさらす女
甘い声を上げるが、なんにも感じない
むしろ不快感を覚える
だが今、同じような事を湖がしてくると、自分の鼓動が跳ねるのが解る
無性に触れたくなる
声を聞きたくなる
その目に自分を映したい
初めての感情に困惑しつつも、湖をきつく抱きしめる
「失礼しまする、殿っ。さきほど・・?!!」
「っ兼続・・・」
湖に当てられたのか、兼続が近づいたのも気づかなかった
そんな自分に、眉を寄せる
「もっ!申し訳ございませんっ!!!・・・しばし、人払いいたします!!!」
開けた襖を勢いよく閉めると、バタバタと去って行く足音
謙信は、ため息をつくと閉じ込めている湖を様子見る
「・・・辛いか」
「・・・はぃ・・・んっ」
顔に掛かった髪の毛を、耳の後ろに掛けてやるだけで、湖は声を漏らす
(原因はわからないが・・・媚薬の効果と相似している)
「湖・・・どうして欲しい?」
ぴくりと、反応し顔を上げる
その瞳には、謙信だけが映っていた