第9章 敵陣の姫 第二章(裏:謙信)
「あれか・・・?」
「はい。安土にて織田縁の姫として過ごした後、理由ははっきりわかっておりませんが、現在は上杉の加護を受けている湖という娘です」
「湖・・・」
(まさか、あの娘が・・・)
「顕如様、いかがされますか」
「・・・今はまだ動くな。同胞達にも動かないよう伝えろ」
「はい」
顕如は、そう言うとまた林の奥へと姿を消した
「・・・これは、少々厄介な事が起こりそうですね・・・困りましたね・・・」
またこれを別の方向で見ていた男が居る
男は墨色の流し着物に、書物を持ってこの様子を見ていた
「まぁ・・・湖様が元気そうで何より・・・」
他人が見れば、いい男が微笑んでいるように見えるが、目は決して笑っていなかった
ただ湖が消えていった城の方をじっと見て、その場を去って行った
==================
「御館様、三成より書簡が届きました」
信長の元へ、書簡が着いたのはその二日後
「・・・」
信長は書面の文字に目を通すと、秀吉に投げて渡した
秀吉はそれを拾い目を通す
「・・・湖の姿を確認。城内の間者より、記憶がないことも確認・・・こちらの時同様、城内の仕事をしている様子・・・っ湖らしいな」
書面を見て、秀吉は苦笑する
「顕如の所在は把握済み・・・十数名ほどの僧侶が連れ立っている・・・か・・・」
「顕如は、そう易々と動かんだろう。あいつは越後に吹っ掛けるような真似はせんだろうからな」
信長は、手元を見ながら小さく呟いた
「記憶がない・・・か」
そこには、握られて音の出ない鈴があった
===================
「湖さん、城下の市に行ってみる?」
佐助からの思わぬ誘いを受け、市に出たのはその数日後
「すごいっ・・・」
目を瞬かせて、佐助に連れられてきた市を眺める湖
「賑わってるね!佐助くん」
「今日は、この近くの神社でお祭りがあるからね。行ってみる?」
「行きたい!!」
純粋に、好奇心と興味からそう答えると
佐助は、いつもとは少し違う笑みを浮かべて頷いた
「湖さん・・・こどもみたいだ」