第9章 敵陣の姫 第二章(裏:謙信)
「っ・・・兼続さま・・??」
「拙者に「さま」は不要です!それより姫様っ・・・恐れ入りますが、姫とはまだ数日のおつきあいではございますが、其れが見る限り・・・失礼ですが、その姫は・・・」
言い度待った兼続に、謙信が声を掛ける
「・・・不注意」
「左様でございます!不注意・・・おっちょこちょいな所も多々拝見しております!決して一人で馬など・・・怪我も治りきってないのに」
「治りましたよ、もうどこも痛くないです」
「いいえっ!治っておりません。本来、女中の真似事などしていただきたくないのです・・・が、それは某、謙信様に言われ承知しました。ですが、馬はやめてください!責めて、その額の傷が消えるまでお待ちくださいっ」
ピシャリと言い切られ、湖が言いよどむと、兼続は持っていた書簡を謙信に渡し、再度湖に「外には出ないように」と念を押し部屋を出て行った
「謙信さま・・・兼続さまは・・・勢いがいいですね?」
「ああゆう奴だ・・・さて・・・」
書簡を机上に置き、謙信は立ち上がると湖の腕を取り立たせた
「謙信さま?」
「少し出かける。着替えてこい」
「・・・っはい」
謙信の表情はほとんど変わらない
でもその目が優しくなっていることは、湖には解っている
会えば、いつも優しく見てくれる
湖は、それに安心感を覚え始めていた
湖が、急ぎ着替えると謙信は湖を乗せ、馬で城門を出た
越後は、山に海に平野、それに小さな栄えた村が転々とある
平野には野花が咲き、天守からも花畑や稲畑を見ることができた
平野をゆっくり馬で闊歩していると、不意に謙信が馬を止め林の方を眺める
ぶるるっ・・
馬が、息を吐く
「どうかしましたか?」
「・・・鬼が入り込んだか・・・」
「謙信さま?」
「・・・湖、今日はこれで帰るぞ」
「はい。ありがとうございました」
手綱を引き、馬を城へ向けると湖を落とさないようにゆっくりと馬を走らせる
一方、馬になれている湖はそんな気遣いも知らずに身を外に出して景色を楽しんでいる
そんな様子を林の陰から見ている者が居た
謙信も陰に気づき、引き返し始めていたが、また陰も気づかれた事を知っていた