第9章 敵陣の姫 第二章(裏:謙信)
春日山城 五日目
春日山城は、山の地形を最大限に生かした複雑な城だった
本丸が一番上にあって、二の丸・三の丸と上杉の御所がある
他にも神社や毘沙門堂や御殿がいくつかあると、兼続から聞かされた
まだ額の包帯がとれない湖は、信玄達に釘をさされ当てられた部屋で一日のほとんどを過ごしていた
ただ、湖は暇はしなかった
信玄、幸村、佐助は、代わる代わるで一日中誰かが来て話し相手になってくれ、時折城下で買ってきたという菓子などをくれた
兼続もお茶請けと言い色々持ってきてくれ、話を聞かせてくれた
謙信の養子である景勝とも対面でき挨拶できた
ただ謙信とは、入城した以来会っては居なかった
「湖さん、額の傷だいぶ良いよ。包帯は取っても大丈夫だ」
「ありがとう、佐助くん」
佐助は、湖の包帯を外し、其処を丁寧に手拭きで拭いてくれる
「・・・まだ傷跡は目立つけど・・・もう少し時間を掛ければ、消えると思う」
「ふふっ・・・これ、私たいした気になってないよ」
額の傷を湖が軽くなぞれば、その手を横から信玄が攫う
「こらこら。あまり触らないように」
「信玄さまも、佐助くんも、心配性ですよ。私はもう元気っ!ずっとじっとしてたから、走りたいくらいですよ」
「湖さん、忘れてないよね?」
「あ。そっか。走ると、鈴になっちゃうんだっけ?」
湖の記憶は相変わらず戻らなかった
鈴の事を思い出しても、どうすれば変わるのか・戻るのか、そんな事は思い出さない
佐助達が把握しているのは、以前湖から聞いた、走ったり、鈴の興味が引く物があったりすると鈴に変わり、尻尾を捕まれたり、基本猫の苦手な事があれば人の湖に戻るということ
家康が見せた口づけで湖に戻るということ
そのくらいだった
「でも、怪我してから私一度も変わってないよ。鈴は、鏡に映ってるけど・・・ずっと寝てるみたいだし・・・」
(鈴、調子悪いのかな・・・)
「まぁ、気をつけるに超したことはないだろう」
信玄に言われ頷くと、急に大きな手が湖を抱き寄せた
「やっぱり湖は可愛いなぁ・・・」
「ちょ、信玄さま!びっくりするから、やめてくださいっ」