第9章 敵陣の姫 第二章(裏:謙信)
「なっ、なんですか?それは?!」
さっきまで、神妙な顔をしていた湖は、兼続の話を聞き驚いた
「そんな噂が、場内および城下で広がって、姫様は悲愴な姫だと、姫様の加護の声が、某のもとまで来ているのは事実…」
兼続が懐から書簡を数枚出して見せた
「さきほど、しばらくと申しました通り。しばしお待ちくだされば、姫様はなんの心配もせず歩けるようになると思いますよ」
「兼続さま・・・」
「某の事は、兼続で結構です」
湖にはニコリと笑って見せる兼続と、あの年老いた大名の顔が重なって見えた
「ありがとうございます、兼続さん」
「っ・・・」
兼続の言葉が止る
それを横で見ていた信玄が、兼続の肩に手を乗せ「天女だろ?」と言って聞かせた
「もうっ、信玄さま、そればっかり」
赤くなって否定する湖に、信玄は頭を撫で
「本当の事を言ってるだけだ。湖は、見た目も、中身も天女のようだぞ」
そう言い切る
「そんな事ばかり言ってると、その内、本当に好きな人に怒られますからねっ」
湖は赤く染まった頬を膨らませ信玄の言葉を制する
その様子を見ていた兼続は、ははっと大いに笑った
「あ、私は姫なんて・・・そんな立派な者ではありませんので、湖と呼んでください。あと・・何か私にできることがあれば、掃除でも家事でもやりますので言ってくださいっ!」
どんと、自分の胸をうつ湖に、兼続は戸惑った
(姫が、掃除に洗濯??・・・湖・・・いやいや、いくら敵方の姫だからと言って呼び捨ては・・・)
「い、いえいえ。まずは、お怪我が治るように専念してください」
「・・・そうですか・・・」
残念そうに、眉を下げる湖を見れば、彼女が本気で言ったことだと悟る
(あながち、あの噂が嘘ではない気がする・・・)
そんな事を考えた兼続であった
兼続が部屋を出て行くと、黙っていた幸村は大きなため息をついた
「あいつの真っ向堂々とした対応、嫌いじゃ無いけど・・・苦手だ」
「そうだな・・・敵対すると、戦いにくい武将だな」
幸村の小言を信玄が拾う