第9章 敵陣の姫 第二章(裏:謙信)
佐助も、居ない物が映っていることには驚いたが、湖と鈴は言わば同じ器に入った状態
あり得ない事は無いかと、一人納得し鈴の名を呼んだ
「あぁ、君の猫だよ。覚えてない?」
「・・・鈴」
湖の頭の中で、チリリンと鈴の音が鳴った気がした
ずいぶん懐かしい音
「そんな顔をしなくても、その内思い出すさ」
横に座っていた信玄が、湖の肩を抱えると、湖の眉間を人差し指でつんつんと突く
「湖は、笑っている方がいい」
「・・・はい」
湖は少しだけ顔を下げると、すぐに信玄ににこやかな表情を見せ返事をした
そして斜面を駆け上がっていくと、茶屋に座っている謙信に身振り手振りで話をしている
その様子を見て信玄はため息をつきつつ言った
「無理に・・・笑っているな」
「そう思いますか」
「あぁ・・・」
信玄と佐助が茶屋の方へ歩き始めると、幸村と湖の言い合う声が聞えた
「だから、化け猫だって言ってんだ」
「ひどい、またそれっ!なんでそうゆう事言うの?!」
「事実を言ったまでだ」
「・・・っ!鈴は、化け猫じゃないもの!かわいいロシアンブルーよ!!」
「は?・・ろしあん?ぶるう??」
「・・・あ」
斜面を登り切った二人が、湖の後ろに立ったとき湖は、口元に手を運び止っていた
急に言い合いが止ったことに、幸村も湖を見ている
少し離れた席に座っている謙信もまた湖の異変に気づき、名を呼んだ
「・・・鈴の事・・・思い出しました・・・」
記憶が一つ戻った
鈴の記憶
どこかで、猫の鳴き声が聞えた
茶屋を出て、移動し始めた一行
湖は謙信の馬に乗せられ、先ほど思い出したと言った鈴の事を話した
話すと言っても、謙信は聞いて居るだけなので、独り言のように
「鈴は、友人から預かっている猫です。煤色で、謙信さまみたいに左右で目の色が違って、頭が良くて、人懐っこい子。鈴と一緒に・・・歩いてて、雷に打たれて、こうなっちゃった、というか・・・うん。私と鈴が合体しちゃったみたいな・・・」