第8章 敵陣の姫 (裏:謙信)
佐助は、湖の様子を見ながら質問を続けていった
すると、名前は覚えているが織田陣に拾われたことや、自分が安土城に住んでいること
織田縁の姫とされていることなど、戦国時代に来てからの事柄が抜けている事に加え、
現代からタイムスリップしたこと
鈴の事など、記憶が混乱しているのか抜けているのか
今は理解できていないことが解った
「私が・・・姫?猫に変わる?・・・ごめん、佐助くん・・・何言っているのか、よく解んない・・・」
不安そうに眉を下げる湖に信玄は背中を軽く叩いた
「大丈夫だ、そのうち思い出すだろうさ。無理に思い出そうとしなくても大丈夫だ」
「・・・はい・・・」
「今は・・・その怪我を治すことに専念しろ・・・」
黙って様子をうかがっていた謙信も湖に声を掛ける
「・・・はい・・・あの、謙信様、助けていただいてありがとうございます」
「・・・あぁ」
四人は、湖を休ませるため部屋を出ると謙信の部屋へと移動した
そこへ湖が目覚めた報告を聞き大名がやってくる
「本当に良かったですね、謙信様」
にこにこと、年老いた彼は笑いかけた
「あぁ・・・お前には世話になる・・・ついでに、悪いがあいつの着物を用意したい・・・」
「お召し物ですか?かまいませんが・・・あのご様子では、当分動けませんでしょう・・・」
「・・・いや、用意でき次第、春日山城へ戻る」
「・・・承知しました。何かご事情があるようですね、急ぎ用意させましょう」
重い腰を持ち上げると、彼は部屋を出て行った
「湖さんの記憶回復を待たないんですか?」
大名が出てしばらくすると佐助が口を開いた
「待っていたら、此処を攻められるだろう。此処は織田領地との狭間の国だから、あちらも攻めやすい」
謙信の代わりに信玄が答える
「・・・そうですが・・・」
佐助は何かを思案するように返答を濁す
「なんだ?・・・言いたいことがあれば言え」
「・・・湖さんが、帰りたがったらどうするのかと・・・」
「・・・どうにでもなる」
城へ連れて行っても、湖が帰りたければ帰す
湖の傷が癒える頃には、織田から何らか接触があるだろう
そう謙信は考えていた