第8章 敵陣の姫 (裏:謙信)
「あまり、触れるな・・・まだ腫れている」
手を取られ、当て布から離される
視界に入る自分の両手は所々擦り傷と青あざができ、包帯が巻かれている場所もある
(私・・・どうして・・・)
考えたいのに、段々と視界が狭くなり、頭は回らなくなる
湖は、ほど無い内に謙信に支えられたまま眠りについた
「佐助・・・」
「大丈夫です。またすぐに目を覚ますと思います。俺は、医者を頼んできます」
佐助は、様子を見て部屋を出た
「・・・あれから、三日か・・・織田側は、何か言ってきているのか?」
「まだだ・・・だが、そろそろ何かあるだろう・・・湖の熱が下がったなら、すぐに春日山城へ向かう・・・」
「謙信様は・・・どうして、その女をそんなに・・・気に掛けてるんですか?」
信玄の問いに答えた謙信に、幸村は言葉を探しながら問う
「・・・さぁな」
湖を寝かしながら、表情を見せずに謙信は答える
(なぜ・・・だろうな・・・、だが、湖を手元に置いておきたいと思う・・・)
その次の日には、湖は朝から目を覚まし、医者の診察を受けた。
熱はほぼ下がっており、無理しなければ移動も可能だと
そして、湖の記憶が混乱している事も解った
「謙信さま、佐助くん・・・あと・・・」
目の前に四人居る人間の二人はちゃんと解っている
あと二人もどこかであった気はするが・・・
「あの・・・どこかで、会いましたよね・・・?」
「あぁ、一度会っただけで名乗ってはいない。俺は、信玄だ。こっちは幸村」
「・・・信玄さまに、幸村さま?」
「・・・・やめろ、様なんて柄じゃねぇ・・・幸村でいい」
「ゆきむら・・・?」
小首を傾げて聞く姿は、童のように見える
その様子に幸村は、薄ら頬を染めそっぽを向いた
(幸村には嫌われているのかも・・・)
「あの・・・佐助くん、私が崖から落ちたって言うのは?」
「あぁ、君は崖から落ちて来たところを通りがかりの僕らが助けたんだ。どうして落ちたか覚えてない?」
「・・・うん・・・なんか、もやもやってする・・・私、どうしてそんな所にいたのかな・・・」