第8章 敵陣の姫 (裏:謙信)
それから二日たっても、猫は寝たまま
生きてはいるが、鳴き声一つ無くうずくまって動かなかった
「・・・なんで戻らない・・・」
(・・・せめて人に戻れば、医者でも呼べるが・・・)
猫を膝に乗せ、その背を軽く撫でていると、襖が開き佐助が入ってきた
「謙信様、報告が・・・」
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「ったく・・・どこに消えたんだっ・・・」
政宗と家康は、湖を探して崖下の町に入った
そこは、謙信達の宿場があるのと同じ場所だ
森で探しても一向にいつから無い事から、少し離れてはいるが一番近い此処へ足を伸ばしたのだ
「煤色の猫の姿は誰も見ていない・・・湖・・・」
家康は、あたりを見回すが平和そうな町並の様子だけだった
この辺は、織田傘下と上杉傘下の挾間のあたり
安土までは馬飛ばして丸二日ほどの場所だった
「徳川 家康さんですか?」
二人の後ろから急に声が掛かる
気配を感じなかったため、振り返り構えると、そこには緑の装束を着た男が居た
「・・・そうだけど・・・あんた誰・・・」
「・・・まさか、本当に会えるとは・・家康公、貴方の事は本で読んでよく知っています。何度も読みましたからっ!」
「・・・はぁ?」
男は、家康の手をムンずっと掴むとぶんぶんと振るように握手をしてくる
家康は怪訝そうな顔で、手を引いた
「でも今はそれどころでは無いんです。付いて来てください・・・会わせたい人が居ます。あ、俺は猿飛佐助と言います・・・湖さんと知り合いのものです・・・と言えば、来てもらえますか?」
湖の名前が出て、家康と政宗は反応した
この佐助と名乗った男、警戒しつつも湖を見つける手段になるかも知れないと付いて行くことにした
三人が門をくぐったのは町から少し離れた宿場
その広い宿場を進んでいき、佐助は部屋の前でしゃがむと中に声を掛けた
「佐助です。二人を連れて参りました」
「・・・入れ」
襖を開ければ、そこには見知った顔が
「上杉・・・謙信っ!!」
「っ!」
二人は刀に手を掛け、そこに座る男を睨む
佐助は、謙信と二人の間に座ると
「今は、刀を交わる時間が惜しいです・・・」
そう言い、二人に座るよう促す
「何が、惜しいだ・・・この機会を逃すかっ」