第8章 敵陣の姫 (裏:謙信)
これより2日前
謙信、幸村、佐助は、信玄の待つ宿場へ森を抜け向かっていた
「相変わらず、すごい崖だな・・・」
「幸村、毎回此処を通るたびにそれを言う」
「そりゃな・・・前に上から下を見下ろした時に、真下が見えなかったから・・・」
幸村と佐助が馬上で、崖肌を触りながら移動していると横から謙信が現れた
「恐れでもなしたか?」
「おわっ!っ、・・・謙信様、あんたっ気配絶って急に現れないでくださいよ」
「どこに行ってたんですか?謙信様」
謙信の鞍の後ろには兎が掛かっていた
それを見た佐助は、あぁと納得する
「暇だったからな」
その時、上の方で鳥が騒ぎ同時に木々が揺れる音がした
すぐに三人は上を確認すると、幸村の頭上に何かが落ちてきた
ぱしっ・・・!
「・・・草履?」
落ちてきたのは、女物の草履
「・・・上から落としたのか?」
草履を見ながら、幸村が再度上を見ようとすると
謙信が何かを見つけ佐助に指示した
「佐助っ!あれを取ってこいっ」
いつもの飄々とした口ぶりとは違って、どこか切羽詰まったような口調
幸村は佐助の動いた方を確認する
崖の岩肌に何か引っかかっているようだった
煤色の塊で、だらりと枝にぶら下がっているような
「・・・猫?」
佐助は、謙信とほぼ同時に気づいた
枝に下がっている猫の存在に
それが、誰かということも
「っ、湖さん!」
岩肌を器用に登って、猫に手を伸ばすが意識は無いようで動かない
どうにか近づき猫を持てば、猫の体温とは違う生暖かい液体の感触
急ぎ懐にしまうと一気に下へ飛び降りた
そして謙信に猫を見せると急ぎ宿場へ馬を走らせる事となる
見つけた際の猫は、鈴は意識が無く
出血していたのだ
宿場へ戻り、信玄と合流すると
佐助は猫に一通りの手当てをし、薬草を採りに出た
弱った猫を謙信は丁寧に抱き上げている
そんな様子をみた幸村は珍しいものを見ているかのようだった
「その子、前にあった子だろ?」
信玄は猫を横から見て謙信に尋ねる
「そうだ・・・」
「・・・・なんで、そんなに傷だらけなんだ?」
信玄の問いには幸村が答えた
「崖の上から落ちてきたんですよって・・・やっぱり、あの物の怪猫か」
猫の額はぱっくりと出血している箇所が見える
他に手足にいくつか傷があるが、毛が邪魔で全部は解らない