第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)
「縁…だって?」
喜之助が怪訝な顔を見せれば、顕如はこれは良しと話を続ける
「あぁ。あの姫もあの猫も、俺と知れた仲だ。以前、あの猫を助けた事があってな…それ以降、様子をうかがいに行ってたんだが…急に連絡が取れなくなってな…」
白粉を人ではなく、猫と呼んだ男は
妖と湖の事は知っていることは解る
春日山城で極秘にされている事
喜之助ですら、はっきりとは説明されていない
過ごしていて…勉強をしていく仲間として兼続に接点を持たされた時
湖の成長については知ったが、白粉が人では無い事は、大人たちの会話から感づいたことだ
はじめこそ畏怖な思いで怪訝にしていたが
そんな思いは、一緒に過ごすうちに小さくなっていき
今ではあの二人は親子だと、ごくごく自然にそう認識している
場内の者たちも謙信の命令もあるが、
意図して二人の話を場外に広めたりはしていない
(湖達の知り合い…?いや…だとしても、いい知り合いなわけねぇな…)
「だからなんだってんだ…湖とアンタが知り合いだろうが、俺をこんなところへ攫ったこととなんの関係があるっ!」
喜之助の言葉に
顕如はにやりと口角をあげる
「ほぅ…湖とはな…小僧は、やはり湖と親しい仲らしいな…よい者を連れてきた」
「っ…」
(あ…っくそ…っ)
ふふっと笑う顕如は、戸を隔てた先の相手に話しかける
「小僧は物置においておけ。暴れて怪我をされても困る。動けぬようにな…」
「お前っ、俺は餌になんてならねーぞっ!!誰が、家臣の子どもなんて」
「あれは、そういう女だ」
「っ…」
縄を解き移動させようとした僧侶を蹴り飛ばし、
喜之助は逃走しようとするが叶うわけもなく、猿轡をされ物置へと連れていかれる
「…人通りが少ないとはいえ、我らの行動は目についたはず。すぐに奴等の耳に入ると思います」
「ここは越後。しかも武田信玄もいる…軒雑に三ツ者。此処も抑えられているだろう。程なく来る…同胞(はらから)達に伝えよ…まともに挑んでも意味はない。我らの目的は、あくまで織田の首のみ。これは、その弱みを手に入れるだけの手段。誰も死することは無いよう手筈通りに動けと」