• テキストサイズ

【イケメン戦国】私と猫と

第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)


湖が聞き返すように名を呼べば

「俺は、お前のことをきれいだと…美人だと思ってるし、かわいいとも思ってる…だけど、急いで嫁に行く必要はねえからな」
「嫁?」
「お前は、」

言葉に詰まったのか、口を噤んだ喜之助の表情は見えない
湖は塀の上にいるのだから、喜之助が上を見てくれなければ当然その表情は見えないのだ

「喜之助?」

ぎゅっと自分の手を握った喜之助は、ふっと息を吐くと湖の方を見る

「お前は、俺の友達だからな。これからも一緒に勉強しようぜ!」
「!」

「友達」「一緒に」喜之助と一緒に居ても一度も言ってくれたことのない言葉だ
最初の出会いこそ最悪であったが、湖と喜之助は兼続たちとの勉強の時間を通じ、だんだんと打ち解け仲良くなっていっていた
湖からすれば、自分は喜之助のことは好きだが、
喜之助にはそこまで好かれていない…嫌いではないだろうが、友達とまでは考えていないと、そう思っていたのだ

「うん!喜之助は、私の大事なお友達!お嫁さんにはまだまだ行かないよ!」
「だよな!今度、俺も飛び縄持ってくるから一緒に遊ぼうぜ!」
「いいよ!負けないからね!」
「おうっ」

二人の子どもの元気な声がする
そこを通りかかった家臣たちは、その会話になごみ笑みをこぼす
そして、湖が塀に登った時からずっと見ていた佐助は、「さてさて…そろそろいいかな?」と苦笑しながらそこに近づいたのだった

「湖さん、危ないからそこから降りようね。そしてそれ…信玄様のだよね?」

喜之助とは、反対側から佐助の声がかかった湖は
びくりと肩を揺らすと、佐助の方をみて「見つかっちゃった」と舌を見せた

「はーい、兄様…喜之助、じゃあ…またね!」
「ん。またなー」

バイバイと手を振った二人

「兄様、いつから見てたの?」
「湖さんが、信玄様の作りかけの棚を持って行ったところから。今後、やめようね。兼続さん当たりが見つけたら、城中に叫び声が響き渡ることになるから」
「えー…ん。それ、ちょっと面白いかも?」
「湖さん、兼続さん剝げちゃうよ」

湖と佐助のそんな会話を聞きながら、喜之助は歩き出す

(あーあ、ちくしょー。せめて十二くらいだったなー…)

短い恋に別れを告げて
/ 1197ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp