第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)
湖の脇を救うように、スルッと入り込んだ大きな手はふわりと湖を持ち上げた
「びっくりした…光秀さん?どうしたの?」
「なに。どのくらい重くなったかと思ってな…」
縦抱きにされた湖は、光秀の肩に手を置き目を見開く
「…女の子に、重くなったはだめだと思う」
そう言うと、うっすら頬を染めふいっと横を向いた
「そうか?」
片方だけ上がる口角に、湖は人差し指を指すように押し付ける
「ほら。湖の…私のこと。そうやってからかってる。私、もう15歳だよ。抱っこされる年じゃないもの」
「「「……」」」
「…何?みんなして?」
光秀にいったつもりが、返答がなく
さらに後ろから視線を感じ振り返った白粉や兼続も無言
そんな様子に、湖がたじろぐと…
「今朝、信玄殿の上で寝ていたのは誰でしたでしょうか…」
「っ、あれは、猫の時だもん!」
兼続の指摘に、はっとしたように頬に赤みが増し
「ふふ…朝餉の後に、佐助に抱っこを強請ったのは見間違いだったか?湖」
「あれは、兄さまだもん!」
白粉の含み笑いに、焦りを見せ
「所かまわず、抱かれて連れまわされているのが当たり替えのような顔をしておいて何をいっているんだ?」
「そんなに、抱っこされてないっ!…はず?え、されてないよね?」
光秀の言葉に、真っ赤になりながらも釈然としない湖は、光秀の頬に指していた指を離し、その頬を冷ますように手を当てる
そして、「んんん…」と唸るような声をあげた
湖の表情だけ見て入れば、ほほえましいが…
「はっ!まず、貴殿!いい加減、湖様を下ろしなされ!」
そうその彼女は、光秀の腕の中だ
当然、光秀はからかう様に湖を下ろさない
「さて、散歩にでもでるか。湖」
「え?散歩?」
「さすがに息も詰まるだろう?場内の散策位問題あるまい。熊の後でも追ってみるのも一見か」
「コロの?」
下を見れば、コロと村正は飽きたようにお尻を向け歩き出している
「だ、だめでございますよ!湖様」
「コロの追跡…」
「湖様!」
「…面白そう…」
慌てる兼続の様子にも気づかないくらい、湖はコロ達の追跡に興味が津々の顔をするのだった