第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)
そんな湖に家族が出来たのだ
自分たちが崩せる物ではない
だから、可能ならばその関係をそのままにしてやりたい
口には出さないが、誰もがそう思っていた
(そういえば…)
「あれが見れなくなるのは少々残念だな」
(信長様が、白粉の変化する姿を気に入っているのは解っていたが、口にまで出すとは思わなかったな…確かに見事な姿だったが…)
巨大な猫…
真っ白な毛は光に照らされ輝き、目元に朱色の化粧を施し金色の瞳をより神秘的に魅せる
今の白粉は、人の姿だ
透き通るような白い肌、白髪だが猫の毛同様に艶が日に当たれば輝く、瞳は金色から湖と似た薄い茶色になった
薄い唇は化粧をしていないのに、紅をひいているかのように見える
視界に白粉を納めていた秀吉だが、ふと気になる事を口にした
「…お前…少し幼くなってないか?」
「は…?なにがだ?」
「いや、顔が…」
兼続と話していた白粉が、秀吉の方を向けば
光秀も目を見開く
「猫は、何かしたのか?」
「何を……っ!?、お、白粉殿…」
兼続も驚き、白粉の名を呼んだ
「あ…ほんとだ。かかさま」
この場で一番驚いていないのは湖なのだろう
部屋においてあった手鏡を持ってくると、白粉にそれを向けた
白粉は、それを覗き込む
だが…
「…そう、なのか?」
反応は首を傾げる程度
「あ、そっか…かかさま、鏡見たことないのか…」
「んな、無頓着な…いくらなんでも…いや、ありえるのか?」
湖の言葉に、秀吉は半分納得するような表情をみせた
白粉の姿の変化は、普段から彼女を見知っている物であればすぐにわかるものだ
極端な容姿の変化はないが、今まで湖の母相応に見えた姿が…
「…かかさま…おねえちゃん?」
湖が姉と言うくらい幼い顔つきになっているのだ
「姉…?」
それには白粉も驚きもう一度手鏡を覗き込む
そこに映ったのは、確かに…
「っ…おかか様は……」
(何を考えていらっしゃるっ)
若い娘の姿なのだ
唖然とした表情を浮かべたあと、少々困惑と怒りを見せる白粉は、今までより表情が豊かだ
すっくと、立ち上がれば…
「あ、背もだっ」