第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)
「もちろん、おかか様のあれ(鬼の顔)だって仮の姿だがな」
こちらに意識を向けてくれた
それに喜んだ湖は、嬉しそうに白粉に話す
「うんっ桜さまは、とてもいい人よ!かかさまも、桜さまも湖は大好き!」
「おかか様は「神」な。この二人が言う「鬼」とは「人」だ。「危険な人間」だと聞いていれば良い」
ふわりと笑みを返す白粉からは、以前の気配は感じられない
今感じるのは、人そのもの
秀吉と光秀の目の前に居るのは、ただの人の母子だ
その話を聞いていたそばの二人から、気の抜けたような笑いが聞こえた
「秀吉さん?光秀さん?」
「はは・・っ、そうだな。お前には「本物」がそばに居たんだったな」
「…豊臣秀吉、おかか様は「鬼」ではないぞ」
「本物」という言葉に、すかさず白粉が秀吉を小さく睨むが、「あぁすまない」と笑いが続くのだ
「こうも頻繁に顔を合わせていると、時折自然に感じてしまうのが恐ろしいな…これも、湖。お前の存在があるのだろうな」
光秀もまた「くくっ」と、笑いを見せるのだった
そんな二人につられ、湖も何が楽しいかは解らないがニコニコと笑みを見せる
ふと、白粉が襖の方に目線を向けたとき
たたっと廊下を走る小さな音が聞こえてきた
「あ、兼続だ」
湖は襖を開かれる前に、すっと開けば直後に現れたのはやはり兼続で
「な、何をしておられるっ!ここは、白粉殿と湖様の部屋!!貴殿達が和み居座れる場所ではない!!」
よほど走ってきたのか、その額には汗がにじみ出ていた
昨日も同様の姿をみた覚えがあった
「兼続、湖がお願いしたの!お外に行っちゃだめなんでしょ?ととさま達も忙しそうだし、お勉強もお休み…じゃあ、湖と遊んでくれるの秀吉様と光秀様、かか様と、喜之助しかいないんだもん!その喜之助だって、昨日お城にしばらく来ちゃだめだって言ったのは、兼続でしょ?!」
「喜之助の件は~~っ!あれは、後ほど改めてご説明させて頂きます!おっしゃりたい事はわかり申したが、だからと言ってお部屋にっ」
「じゃあ、場内の馬上で・・」
「湖様!馬はお止めください!万一暴れ出したり、外に出られては危のうございます!」
「…じゃあ、光秀様にお勉強・・」
「だめです!狐に何を教え込まれるか…」