第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)
春日山城に戻って早々のこと…
それは、光秀からの情報だった
鬼が動き始めそうだと…
信長を討つ…それが目的の顕如が、今目を向ける存在は湖だった
どうやら、湖と今の15の湖が同一人物だと察している様子だと
越後にちょっかいをかけてきていた北条や小国の残党らが顕如の存在を嗅ぎつけ、彼らに近づいたとも…
今のところ大きな動きはないが、鬼が目撃された場所が越後領内との事から警戒しているのだった
「湖を利用する気ならば、先に潰せばいい」
そんな謙信を止めたのは湖だった
「まだそうだと決まったわけでもないんでしょ…っ、戦はやだよっ」
戦にはならないと謙信が言っても、やだと言ってその腕をつかんで首を振る
信玄は思うところがあるようで、顕如の事になると口が堅くなっていた
「根も葉もない情報は持ってこない…あれは、利用出来る物はなんでも利用して目的を果たそうとする男だ…そんな甘い考えをしていたら、あとから後悔をすることになるぞ」
「湖、こいつは飄々として信用ならない様にも見えるが、持ってくる情報に間違いはない…仕掛けるかどうかは別として、しっかり警戒する必要はあるんだぞ」
「光秀さん…秀吉さん…」
謙信の袖をつかんだままの湖、その頭を軽くポンポンと撫でるように触れば
パンと払いのけられた秀吉の手
「…触るな」
払われた手と払った相手、謙信を視界に収め無言で睨む秀吉の肩に光秀が手を乗せた
「秀吉、湖が居るのを忘れてないか?」
はっと視線を湖まで落とせば、秀吉のその視線に青ざめる湖の姿が目に入った
秀吉はくっと視線をそらすと「悪い…」と小さく声を出す
「わかった…湖、こちらからは今は手をださん。だが、奴らが仕掛けてきたあとは口出し無用だ…わかったか?」
「はい…謙信さま」
「それと、しばらく春日山城からの外出は禁止だよ。いいかい?湖さん。猫の姿でもだめだからね」
「兄さま…わかった」
安土にはすでに同情報が報告されている
光秀が今回、春日山城に入ったのは情報に長けているからだった