第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)
湖が15になった日
登竜桜の元で裳着祝いという名の宴会が行われた
浴びるほどの酒、様々な食べ物
古木の周りで行われた賑やかな宴会は、今までなく賑やかで穏やかな時間だった
一月後には、白粉の今後が…
仮の時間を終えて消えるか、人として生きていくかが決まる
猫として?
それは、すでに頭にはないだろう
彼女の思いは、湖を見守りたい事、抱きしめられる存在として、言葉を交わせる存在として
「もどかしいな…」
封じられた自分の力
あの日からたった三日
一瞬で終わったように感じる宴
あの日、湖の歌以降は敵味方しがらみなどないかのような言葉の交わし合いのみだった
登竜桜も眉をしかめる事がなかったことから、本当にその通りなのだろう
はぁっと、幾度となく出る自分のため息に、またため息をつく
登竜桜の元から春日山城に戻った謙信一行
織田側からついてきたのは、光秀と秀吉だった
光秀は、本来一月にここに来る予定だったようだが…
本人曰く、少々面倒な事があったようでそちらにふらりとしていれば…気づけばあの日になっていたとこか
秀吉が怒る姿は目に浮かぶところ
(顕如…といったか…あの男とは師弟関係であったらしいな…)
白粉が思う「あの男」とは「教」の事だ
かつて自分を式神にした男
(思うところはあるが、もう終わったことだ…あの子にはかわいそうな事をした…)
自分が産み落とした子猫
父猫もまた「あの男」の獲物にされ亡くなった
(いや、消したのは私自身か…せめて、父子あの世で会えていれば良いが…両方を死なせた私が祈る所ではないのだろうな…)
ふっとさみしげな表情を見せ、また出てしまうため息
「湖、白粉は大丈夫なのか?」
「んーー「大丈夫だ」ってかかさまに聞いてもそう言うんだもの…秀吉さん、どうしたらいいかな?」
「そうか…そうだな…」
縁側に座り、考え事をしている白粉を
部屋の中にいた湖と秀吉は、心配そうにその姿を見ていた
「気晴らしならば、城下の散策でもと思うが…今はな…」
「ここの軍神に追われたければ止めぬが、いい案だとは言いがたいな」
「わかっている」と秀吉は、光秀の方を顔を向ける