第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「あれぇ?」
「なんだ?」
「…謙信さまは、何人いるの?」
ヒックとしゃっくりをする湖に小さくため息をついた謙信
「…動くな。じっとしていろ」
そういうと、湖を軽く捕らえた
その背後に、湖の顔を覗き立った信玄
「あれ~??ととさまも、いっぱいいる~」
「湖…」
こちらは、はぁ…と大きなため息だ
「そいつを寄こせ」
ピリッと空気が堅くなるのを感じ、正面を向けば
今声を発した政宗に、秀吉の鋭い視線が見える
その横には、面白そうな表情を見せる信長も…
「以前は、そこまで酒に弱くなかったが…今は、それが初めての酒か…ずいぶんと面白い酔い方をするな」
口角を上げると、持っていた酒を少しだけ口に含む信長
そんな彼にあえて表情を見せずに信玄が返す
「この娘は、俺の娘になる…いい加減、その所有物のような物言いはやめてもらおうか」
「…反対はせん」
思いもよらぬ返答をした信長に信玄は目を見張った
そんな信玄に、信長が続けて口に出した言葉に秀吉達が驚くこととなった
「貴様の娘になるのは構わん」
「っ、信長様!」
声を上げたのは、驚いた秀吉だ
「な、何を…っ」
「…猿。記憶が戻ろうが、このままであろうが、湖は意思を変えん…俺がなんと言おうがな…よって、そんな事で揉めるつもりもない」
「っ、それでは湖は…」
ふっと不敵な笑みを浮かべる信長が続けて発したのは、湖の口づけに呆けていた家康も驚かせる言葉だった
「裳着祝いだ。貴様に領地を戻す」
「…は?な、んだと…」
「な…っっ!!??」
未だに酔いが覚めず、謙信の胸元に顔を擦り付けふにゃりを笑う湖の方へ顔を向けると、信長は今まで見せていた表情と変わり眉間に皺を寄せ…
少し離れた場所にいた登竜桜の方を向く
「湖の酒を抜けるなら、今すぐ戻せ」
登竜桜は、それに対し『本当に騒がしいな』と首を振りながら湖の方へと歩く
彼女が湖の額に指を上げれば、ぽわりと桜色の淡い光がともる
その様子を横目に入れながら、信玄がいぶかしげな顔で信長に問う
「…何を企んでいる…今のは戯言か…」