第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
心配そうな表情を隠さない幸村が、湖を呼ぶと
「…あれぇ~??」
「あれ?…って。お、おい。大丈夫か?」
くるりと自分の方を向いて笑う湖の表情は見たことの無いものだった
頬を染め、瞳を麗し、無邪気に
だが、少し困ったように眉を下げ
「ゆきー?」
と、首を傾けるとふわりと笑うのだ
いままで、幼女の湖からは感じなかった色香だ
「にぃさまぁも、みぃっけ」
ふふっと笑いながら佐助を指差し
「完全に酔ってる…これは、危険。直ちに回収を…」
ため息をつきながら立ち上がろうとした佐助に、湖から向かって歩いてくる
佐助は目の前の気配に立ち膝のまま顔を上げれば、唇にふわりと温かなものが触れたのを感じた
「ばっ…湖?!」
声を上げたのは一番間近で見ていた幸村だ
幸村は、湖がいつものように佐助に抱きついてくると思っていた
(たく、酔っ払いが…)くらいに思って呆れてため息をつこうとしていたのだ
だが、真横で見せられたのは
佐助と湖の口づけだ
佐助が顔を上げるのと同時に、湖が顔を下ろし触れるだけの口づけをしたのだ
「にぃーさまに、おまじないー。ふふ…あぁ。ゆきもー」
ちゅっと、耳元近くでなった音
今までになく間近に見える湖の瞳
ぴしり…と音でもしそうな程に、まったく動かなくなる幸村
「ちょっと、あんた…っ」
思わず家康が湖を後ろから押さえれば、湖は抵抗すること無くその身を家康に預け
くるりと身をその腕の中で返してしまう
そして、首に腕を掛ければ背伸びをしながら家康の唇をさらうのだ
「いえやすもー」
ひっく
小さなしゃっくりと共に、先ほどからのふふっという笑み
「湖、いい加減にしろ」
それを制したのは、湖の袖口に手が届いた謙信だ
ぐいっと袖を引くと自分の胡座の中にその身体を閉じ込める
「わぁ・・」
急に動いた身体に、視界が振られ湖は目を閉じる
「…たかが一口飲んだくらいで…」
と、呆れた様子で湖を見た謙信だが、その言葉が途中で止まるのだ
ひっく、
しゃっくりは止まらず、満面の笑みで謙信を見上げると