第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「土地神様が…ですか?」
「あぁ。おかか様は、金と緑が交わる…私も、見たことはないが、想定は出来る。力を押さえたおかか様の瞳は、おそらく湖と…同じだ」
白粉は、自らそう口にしながら少し考えたように続けた
「神と呼ばれる多く…一概にすべてとは言えないが、金が交わる色味が多い。生命を持って生れたものは緑を。人の欲望や感情からなるものは、紫や赤を。それ以前からおられる神々は金単色とな。私たちにもいくつかの生れかたがある…思えば湖の瞳は我らに近い色味ではあるな…」
「…湖様は、異国の血が流れていると仰っておりました」
「ならば不思議では無かろう。何人も来た宣教師たちの中には、湖と似た色味を持つ者がいただろう」
「あぁ…そうだな…」
三成と信長から帰ってきた言葉に頷くものの、白粉から帰ってきたのは曖昧な返答だった
(そうだ…確かにそうなんだが…なんだ?この感覚は…湖とおかか様…)
酒を飲む登竜桜と、信玄と話をしている湖の両者を流し見ると白粉はふるふると頭を振るう
(勘違い…だろう…)
「白粉様?」
「いや、何でもない」
「あ、こら。馬鹿、湖…っ」
「ん…っ、うぇっ、これっにがっ…」
信玄と秀吉がなにやら言い合いをしている間に、湖が飲んだのは信玄の酒だ
舌を出して眉を潜める湖の口元に果物を持ってきた信玄
「ほら、これを食べなさい…まったく、おっちょこちょいにも程があるぞ。湖」
「別に間違ったわけじゃ無いものっ良い匂いしたから、かかさまの樹液かなーって」
口元にあった果物を両手で受け取ると、シャリっとその実に食いつきながら説明をすれば、今度は秀吉が眉をしかめるのだ
「湖、お前…普段から酒を飲んでる奴が側に居ての言い訳にしては…安易なんじゃないか?」
ぎくりと背筋を伸ばし秀吉を見れば、薄く開かれた目は確信を付いている様子で
「…謙信さまや、ととさまが美味しそうに飲んでたから…今ならこっそり味見できるかなって」
へへっと笑って済まそうとすれば、身近な男二人はじとっと湖を見るのだ
「「湖」」
「…舐めただ」