第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
白粉はその表情を見て、自分の気持ちが見透かされているのを感じ取った
(さっきの湖の言葉…あれに私はもう答えを出してしまったようなものだからな…)
どんな形でも、やはり湖を見守っていたい
だが、人として暮らす不安は拭いきれないのだ
寿命の面、見守り続ける期間で選べば人だ
そして会話も、湖を抱きしめる事ができるのも人の身体
猫では無理だ
(残るのであれば、人を選ぶ…だが、人になった私がいつまでも湖の側に居続けるわけにはいかない…先の事も考えて慎重に…慎重に決めるんだ)
敷布に付き、登竜桜の横に腰を下ろせば…
『あの男と夫婦になれば問題は無かろうに』
と、登竜桜が小さく言うのだ
白粉はそれに、一瞬何を言っているのか理解出来ずにおり、少しして「あの男」が兼続の事を言っているのだと気付くと、今度は口をぽかりと開けて驚いた
だが、他の誰にも聞こえていなさそうな登竜桜のつぶやきに、あえて突っ込みはしない
表情を隠すように、にこりと笑い
「おかか様、お酒はほどほどに」
と注意を促すに留めるのだった
『煩い娘だ…さて、湖が十五になった。先ほど話たように記憶は戻しておらんが…裳着というのをやるのであろう?存分に振る舞え』
「裳着とは名ばかりの宴会だけどな」
登竜桜に答えたのは、幸村だ
幸村は隣に座った佐助の姿を懐かしそうに見ると、その背中をばんばんと叩いていた
「幸、痛い」
「んなわけねーだろ。すっかり元に戻ったな、やっぱりこっちの方が佐助だ」
「…おかしいぞ、幸。どれも俺に変わりない」
「っるせーよ」
佐助と幸村が酒を飲み始めている
湖の隣に座った白粉も
「貴様…その目の色は元々なのか」
「色?今、私は何色をしているんだ?」
「白粉様の瞳は、湖様と同じような色をしておりますね…この方が親子らしい…と言いますか、そう見えます」
「あぁ…そうか…ずいぶん昔の事だから忘れていたが…そうだな。私も、元は湖と同じような色味だったな…だが、色味で言うなら、おそらくおかか様の方がさらに似ているだろうな」
信長に指摘され、白粉は自分の目元を手で触る
三成は、そんな白粉の瞳を見ながら、その色について教えれば、白粉から帰ってきたのは登竜桜の瞳についてだった