第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「ふふ。重たくなった?」
「重くなった…とは言わないな…重さで言えば、軽い方だ。他だな、色々成長しているな…親としては心配だ…」
「信玄様、すみやかに下ろしてください」
「兄さま?」
片手で抱き上げた信玄
空いている手で湖の腰元に触れれば、驚いたように身体が反応する湖
「っ…、と、ととさま??」
「腰元…尻周り…」
信玄に抱えられていることで密着している胸元から、湖の成長を感じる
(見た目より大きいか?)
くっつく胸元が、思っていたよりふくよかで信玄は眉間に皺を寄せた
「湖、いいか?誰でもかれでも、抱きかかえられないように注意をしろ」
「その前に、いい加減おろしてください。父上…」
チャキ…と、信玄の背中に突きつけられるクナイは、湖には見えていない
見えているのは、笑っている佐助の顔だ
「…ととさま、兄さまが笑ってるよ…ちょっと怖い感じがするのは、気のせいかな…?」
湖にも解る
笑っているが笑っていない佐助の表情
というより、佐助は大きくなるにつれ表情が乏しくなっているのに、誰が見ても口元に笑みを浮かべているのがわかるのだから、余計に恐ろしい
「あー、下ろす。下ろす。湖が怖がってるぞー。佐助、それ仕舞ってくれ」
「…湖さんを下ろし次第に」
ゆっくり下ろされる最中、湖は佐助の顔から目が離せないでいた
佐助は信玄が湖を下ろし初めて直ぐにクナイをしまい、その背中から避けた頃
湖に全身が見られる頃には、何も持たずに
持っていた様子がないように見えるのだからすごいのだ
(兄さま…絶対武器もっていたよね…しまった様子がわからなかったけど…)
「兄さま…」
「大丈夫。湖さんの危険は可能な限り…目に止まる限り払うから」
「…ありがとー。でも、ととさまだからね?」
「…まだ仮です」
「うん…でも、ととさま・・」
「仮じゃなくなったら、改める」
「…わかった…」
(兄さま…今になって解ったかも…きっと過保護だ)
おおよそ周りの誰にも過保護にされている湖が、過保護認定した第一号は佐助だった