第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「…おかか様…正直、私は不安で…」
『湖にも言ったがな…白粉、今を楽しめ。存分に…な』
そう言うと、登竜桜は残してきた彼らの元へ向かった
その後ろに佐助、信玄
そして湖に手を組まれた白粉が歩き続く
「かかさま、どんな感じ?」
「なにがだ」
「今、湖…私と同じなんだよね?どんな感じ?」
湖に問われて白粉は、空いている方の手を持ち上げると、その手の平を見つめて答える
「弱々しく…煩わしい…」
(力をくわえようにも、何も感じない…)
「でも、猫の姿には慣れそうなんだよね」
「そうだな。それは可能だ…が、戻るときはお前と一緒だな…」
「…一緒?」
少し前を歩いていた信玄が立ち止まったことに気付かず、湖は信玄の背中に鼻をぶつけることになる
「っぷ…」そんな擬音を上げた湖の方へ振り向いた信玄は、白粉を見て困ったように笑うのだ
「白粉…人目を気にして変化しろよ。湖もだが、お前達二人。頼むから十分に気をつけてくれよ」
「…この身体ではやはりまずいか?」
「あぁ。はだかっ事?気をつけてるよー」
眉間に皺を寄せる白粉に、笑いながら軽く答える湖
それぞれ違う反応だが、両者心許ない返事に信玄は手で目を覆う
「白粉さん、湖さん。本気で気をつけてください。襲われます、確実に」
「どんな物好きだ…」
「襲われる??」
佐助も続けて注意を促すが、白粉は呆れた様子でいるし、湖は解ってない様子なのだ
信玄と佐助は目を合わせると、お互い頷く
何やら意思疎通したようだが、白粉と湖には解らない事だ
「湖、私は匂いでお前を覆う範囲が狭くなった。あまり離れずに、危ないことをせずにいてくれ」
「心配性だよ、かかさま」
「湖…」
「もう…これ、これは聞こえるでしょ?」
おもむろに、首に提げた紐を引くとそこにあったのは佐助お手製の笛だ
湖は、口にそれをくわえて小さく息を入れた
人には聞こえるか聞こえないかはっきりしない音が笛から出ている
すると、登竜桜の空間にいる動物たちが一斉に湖の方を向くのだ
それは、白粉にも聞こえており…
「聞こえている」