第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「え…?私の成長ってこれで終わっちゃったの??」
「あ。そう言う意味ではなく…君は、十五からほとんど変化無かったんだと思って」
「…言い方が違うだけで、同じだよ。言ってることが…兄さま」
「ちょっと此処きつい」と自分で袷をぐいっと開こうとする湖を制止たのは信玄だ
「湖、無理矢理開くな。着崩れる」
はぁっとため息をつくと、ちゃんと苦しく無いように調整をする信玄
その間、彼のため息は止まらない
「ん。ととさま、ありがとー。苦しく無くなった」
ふふっと笑った湖は、くるりんとその場で回ると…
「胸、ちゃんとあるね!かかさまと一緒っ柔らか~いっ」
と羞恥もなく言うのだ
(幼さはそのまま…外見と不釣り合いだな)
佐助と信玄が同じような事を思えば
『十五などまだまだ子どもであろう』
と、登竜桜が答えるのだ
「人の十五は、場合によっては嫁に出ている大人だぞ…俺は、こんな無防備な娘を持つ親なのか…」
『湖の親だからこそ、胸の病治してやったんだ。湖に感謝をしろ』
「…感謝仕切れない。俺は、この娘を守ると誓うよ」
『…側に居られぬ儂の代りを努めよ』
「承ろう……俺の感謝は、貴方にもあるのだから…」
信玄は自分の胸に手を当てた
常にあった小さな痛みや違和感が一切無い
自身で感じていた何時病が暴れ出すか…という恐怖も感じない
(消えたのだろう…本当に……病が…)
『保証する。胸の病は治した。それは、再発することもないだろう…すくなくとも百年ほどはな…儂のこと、湖の「お守」のこと口を閉ざせよ』
「神様の保証付きとはな。理解している、情報は漏らさない」
クスリと笑う登竜桜に抱きつく湖
「桜さま、ありがとうございますっ!」
ぎゅうと、背中に回す手に力が加わる
人の子の力などなんとも無い
『…あぁ。感謝をしろ、湖』
こんな特別な対応をするのは、湖が白粉の連れてきた娘だから
自分の気に入ってしまった人間だからだ
湖の背中に手を回し、軽く抱きしめれば
急に流れ込む記憶に、ぴくりと登竜桜は身を揺らした