第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
『巨大な猫になったり、妖術を用いた嗅覚や聴覚の強化は出来ぬ。着物を自在に出すことも同様だ』
「聞くだけでも不便だと感じますよ、おかか様」
「あ…かかさまの目…金色じゃない…私と同じ?」
白粉の瞳は金色から、緑がかった琥珀色に変わっていた
自分では見えないそれに、白粉は手を持ってくる
『妖の…神と呼ばれるものたちの瞳の色は、力の強さにも反映するからな。力が増せば増すほど、瞳の色が輝く』
そう言われ登竜桜を見れば、彼女の瞳も金色が入っているのだ
白粉の金色一色と異なり、緑と金色が混ざる神秘的な色は、人ではないと直ぐに解るものだった
『外見的に変わるのは目の色くらいだ。白粉、そう緊張するな…お前は一人ではなかろう?』
「……無理です。このような不安感は初めて…いや、ただの猫だったときには…こうだったのか…?」
『っ、くく…あの時は子ども過ぎで解らんだろうな…比較はできんだろう』
白粉の子猫姿を思い出し、登竜桜が笑えば
「かかさま、猫にはなれるのでしょ?じゃあ、私や鈴とお散歩はいけるね」
嬉しそうに笑い出したのは、湖だ
白粉はそれぞれ違う事を考える二人に苦笑すると「そうだな」と、どちらにもそう返答をした
「話がまとまったのなら、湖と佐助を成長させろ」
謙信がそう言うと、そうだなと登竜桜はその場を立ち上がり、佐助と湖、白粉
それに信玄を呼んだ
「俺もか?」
『お前は、湖の親になるのだろう?「お守」の一件もある…一緒に来い』
お守と言われ、信玄は登竜桜が白粉から記憶を読み取り
自分が湖の「お守」について知っている事を知られたのだと気付いた
「なるほど…そうゆう事であれば、共に行こう」
信玄が立ち上がると、幸村が心配そうな表情を見せた
「幸、そう心配するな。桜様は、白粉の母者。湖にとって…おっと、これは失礼か…土地神様だ」
幸村の表情を見て、信玄が軽くため息をつけば
「…心配はしてねぇ…」
そんなわけない表情を見せる幸村の頭に、手を乗せるとポンポンと叩く信玄
そして、その手を払う幸村に佐助が声をかけた
「桜様の事だから湖さんを扱う上での注意事項を教えるんじゃないのかな」