第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
実際に見なければ、夢物語と思うものが大半だろう
だが、目撃してしまえば、それは強奪対象となるだろう
その後は、転がり落ちるのも同様だ
神探し、地の奪略、人ならざるものとの戦もあるかも知れない
何より、神が神でなくなるの方が恐ろしい
落神となってうろつく神が増えれば、誰も対応出来なくなる
人の世がなくなる恐れだってあるのだ
「……神を恐れずとも、その存在に敬意をはらうことはできたか」
「俺が認めるのは、俺が会った存在のみだ。だが、崇拝する気も、称える気もない」
『面白い若造だ…あぁ、そうか…お前が、佐助が言っていた「信長」だったな』
「…佐助が?」
『あぁ。初めて此処に来たときだな……儂と似ておるか…』
はて?と、少しだけ首を傾け信長をじっと見た登竜桜は、やがて興味を失せたように
いや、なにか別の事に関心が行ったのか
じっとしたまま黙り、やがて
『……あぁ…それはいいな』
「…良い気分ではないな」
『そう言うな。この場では儂に隠し事は出来ぬのだ。お前の考え、試すのが良かろう』
ふむと、信長にニヤリと笑みを浮かべた登竜桜が次に見たのは白粉だ
『白粉、お前の妖の力封じる』
白粉が息を飲み、目を見開けば
『簡単な封じだ。お前の意思で開けることは出来るが…激痛があると覚えておけ』
「…なぜですか?封じる理由を教えてください」
『人とはどんなものなのか体験するのが一番だろう…と、彼奴の考えに賛同したからだ』
登竜桜が言う彼奴とは、信長のことだ
そんな言い様に信長は表情を変えずに白粉を見ていた
「私は……必要があれば、こじ開けてでも力を使います…」
『構わん。好きにしろ』
まだ自分の考えもまとまらない
だが、湖をはじめ彼らが自分を此処に留めようとする気持ちは感じられ、白粉は登竜桜の提案を思案する余裕もないまま受け入れた
登竜桜は白粉の額に指を当て、人では聞き取れない言葉を紡いだ
とくに変化は見えないが、指を離した登竜桜はふっと口元を緩めた
『だが、お前は湖の母だ。猫と人になれる部分だけは、湖同様残しておいた』
「…わかりました」
「かかさま…湖と一緒なの?」
未だに白粉の袖を握る湖の頭を軽く撫でると
『そうだ。お前と同じだ』