第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
『湖もだ。白粉を留めたければ、留める努力をしてみろ。こやつは頑なだ…人をさげすんでいるわけでは無い。現に、お前に愛情を抱いている。だが、妖が人になるというのはずいぶんと変わるものでな……此奴がこれを受け入れられるか否か…』
「次までに、かかさまは決めないといけないの?」
『そうだな…刻の乱れは、佐助はもう問題ない。今回で儂が手を出すのは最後だ。湖、お前はあと1~2度で大丈夫だ…そうなれば、記憶を戻す事になる。今でも構わんが…白粉に考える時間をやってはくれないか?』
登竜桜は、そう言いながら周りの武将達を見た
湖に言うのと同時に彼らにも言っているのだ
信玄、謙信、幸村、佐助は小さく頷く
安土の面々、こちらも同様だ
「…っち、記憶が戻ればかっさらって行ってもよかったんだがな」
「政宗さん、気持ちはわかりますけど…あんなの見せられたら納得せざる得ないでしょう…」
側の家康にしか聞こえないような小声で政宗がそう言えば、家康はため息をつきながら答える
「妖を人にな……神の力とは何が出来るか解らないものだな…面白い」
「そうだな。だが、本来は相交わらない者達だ…光秀、間違っても手を付けようとは思うなよ」
「手に入らぬものを追う主義はない。安心しろ、秀吉…それに、あれを虐めるのにわざわざ此処や親を使う必要もないだろう」
「な…お前は…そんな事を言ってると、本格的に湖に嫌われるぞ…まったく…」
「湖様を虐める…ですか…?あぁ、可愛がりたいという意味ですね。それには、同感致します。光秀様」
「三成…お前は…」
くくっと笑う光秀に、あきれかえる秀吉
そして、くすりと天使のような笑みを浮かべる三成
彼らの話を耳に入れて信長がはっきりと宣言した
「…人ならざる力で、この世の理を変える事は許さん…此処にも、神にも妖にも手を出すことを禁ずる」
ゆっくりとしたその声に、安土の五人は即返答をする
「「「「「っは」」」」」
目の前にある不可思議な力
強欲なもの、安易なもの、もしくはただの阿呆ならば、何に利用できるか思案し、どうにかそれを利用出来るすべを探すだろう
だが、信長を初め誰もがそれを使おうとは考えない
こんな力が一度世に出て知られてしまえば、どうなるか…
安易に想像がつくからだ