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【イケメン戦国】私と猫と

第28章 桜の咲く頃  四幕(十二歳)


「白粉、俺は湖の父親になる覚悟は出来ている。だが、母親にはなれない。どんな形であれ、お前は湖に必要だ」
「化け猫…お前、本心を言えよ。なにをそんなにびびってるんだよ」

信玄に、幸村
春日山城に一緒に住まう彼らは、白粉の人らしい表情を知っている
それに慣れ、妖(あやかし)であることも時折忘れてしまうくらいに
湖と白粉が共にいることが自然なのだ

「母なら子の側に居るべきだろう…子が望む限りは」

謙信は、空になった盃を置く

「かかさま…」

湖が白粉を呼び見上げれば、彼女は自分の顔を見せないように湖の首元に顔を寄せ、その背中を抱きしめた

「……無理だ…」

頑なに断り続ける白粉の理由を知っているのは、登竜桜だけだ
先ほどから流れ込む白粉の思考
泣き叫ぶよう声が聞こえているのだ

(まったく…手間のかかる…)

湖の後ろから近寄った登竜桜は、白粉の額をいつものように指で振れその名を呼んだ

『白粉』

はっとしたように、湖を抱きしめたままで登竜桜を見上げた白粉は悔しそうに眉を潜めた
その額には淡い桃色の小さな光があった

「……っ、願ってしまう。いつまで一緒にいられるかと…心地良い、共に過ごしたい、愛おしい…これ以上、留まれば私は此処から離れられなくなる…恐ろしい…自分が何になるのか…もう落神のようにはなりたくは無い。この娘を、彼らを傷つけたく無い…なのに…っそれでも、残りたいと願う…私は酷く愚かだ…」

本音だ
白粉が決してこぼさなかった本音
湖の側に居たい
此処が心地よく、愛おしい存在なのだと口に出したのだ

湖は白粉の肩に両手を突き、自分の腕を伸ばした
すぐそばにある金色の瞳が潤んで、そこに映った自分
赤くなった目元と頬
取り繕うものをすべて剥がされたように
ただただ目の前の娘を見つめる母の頬にはゆっくりと、未だ落ちて続ける涙があった
それを辿るように頬に指を滑らせ
優しく金色の滴をすくえば、白粉の力なく落ちた両手は生い茂る葉っぱを撫でるのだ
その触感にぴくりと肩を揺らすと、白粉は薄い唇をぎゅうと一噛みし

「…おかか様…桜様、あんまりです」

と、湖の後ろに居る登竜桜に文句を言うのだ
その額の光はすでに消えている
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