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【イケメン戦国】私と猫と

第28章 桜の咲く頃  四幕(十二歳)


白粉の様子に、湖が不安そうに腰をあげ白粉の元へと向かう

「湖は、まだ子どもだ。母親が付く必要がある」
「記憶を取り戻せばもう大人だ」

信玄の声に白粉は姿勢を崩さないまま応えた

『…お前は良くとも、ここに居る奴らは誰もそれを望んで居ないようだが?』
「っ、おかか様…?」

顔を上げれば、優しく微笑む登竜桜が見えるのだ
盃を持つ手を下ろすと、それを置き
登竜桜は、白粉の頭を撫でる

『儂も…そうさな、もう少し娘を側に置いていきたいのだが……いやか?』

その目に、白粉の瞳が滲む
表情を変えないようにと無意識に眉間に力が入れば、くいっと彼女の着物を引いたのはまだ十二の少女の手だった

「…かかさま…忘れてないよね?「かかさまは、ずっと私のかかさま。急に居なくなったりしたら怒るんだからね」って約束したよね」

まるでこれから捨てられる子猫のような目で見上げてくるのだ
あの時、白粉は返答を明確にはしなかった
「そうか」と曖昧な返事はしたが、約束をしたわけではないのだ

「湖、私は妖(あやかし)…本来は、お前達と共に過ごす者ではないのだ。例え、私が居なくなったとしても、お前には彼らが居る。むしろ、私が居ては邪魔になるだけだ」
「なんで?なんで、かかさまが邪魔になるの?」
「…そう慕ってくれるのは嬉しい。だが、私はお前と本当の家族にはなれない…私の時間はずいぶん前に止まってる…ずっとは、一緒には居られない」
「意味、わかんない…っ」

白粉の袖を握る手に目一杯の力を加えて首を振る湖

(…あぁ…せめて、この子が結婚して幸せになる姿を見守れれば…贅沢な夢だな…)
「すまんな…」

愛おしい子を優しく抱きしめれば、湖は声を上げて泣き出す

「やだ…っ、かかさまが、居なくなるなら…大きくなんてなりたくないっ…記憶なんて、いらないっ」

トントンと、あやすように背中を叩いていれば
いつの間にか自分の瞳からも流れ出る涙に、白粉は苦笑した

(二度目か……これは、自然と出るものなのだな…)

そんな様子を声をかけずに見守っていた武将達の表情は様々だ
感情を表す者も居れば、その表情を一切変えない者
彼らは、湖が落ち着くのを待っているのだ
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