第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「目の前はおじーちゃんのお城で、秀吉さんたちが居て、後ろにはととさまたちがいるよ。ちょっとしか離れてないし、謙信さまが良いっていったもの」
ふふっとおかしそうに笑うと、馬から降りる湖
そして秀吉の横に立つと、嬉しそうにその手をつなぐのだ
「っ、湖…」
「秀吉さん、お久しぶりです。えっと…湖が、九つの時以来?」
「…だな、綺麗になったな…湖」
秀吉の目元が柔らかく細められ、つながれた手に少しだけ力が加わると、湖はコロコロと笑い出す
「そんなに懐かしそうに見ないでください」
二人が馬を引きながら城門まで来れば、他の武将達も笑みを浮かべた
だが、一人だけ
「あんた…」
「家康さま…どうしたの?」
「…呼び方…」
(呼び方?)
少しだけ首を傾げれば
「なんで戻ってるの…俺だけ」
と小さな声が聞こえてくるのだ
(…何の話だろう…あ…そっか…)
「えっと、家康さまは、薬学の先生だから…」
「三成だって、兼続だって同じでしょ」
「あれ…?なんでだろ?」
そう言われれば、その通りだ
三成にも、兼続にも勉強を教わっている
湖からすれば先生だが呼び方は、三成くんに兼続だ
自分でもおかしいと思ったんだろう
更に首が傾けば、政宗が含み笑いしながら声を出した
「家康、お前の態度だろ。三成や兼続に比べてずいぶん偉そうだからな」
「な…っ、政宗さん。俺は、偉そうにした覚えはないです。これは・・」
「家康様は、昔から律儀で謙虚なお方です。私は…偉そうには聞こえた覚えはありませんが…そうですね。なんと言えばいいか…博学そうなお話の仕方・」
「ちょっと黙ってってくれないか…三成」
「やはり謙虚ですね、家康様は」
十二の湖になら、なんとなく解る
家康と三成の話がなんとなくかみ合っていない事
三成の好意は感じられるが、家康は面倒そうに見える事
(でも、仲良しさんだよね。だって、本当に面倒ならいちいち答えてくれないと思うもん)
「ごめんね、家康。気をつける」
「別に…俺は、政宗さんが呼び捨てにされているのに、自分に「様」がつけられているのが納得いかないだけだから」
「うん。わかった」
(家康が、喜之介とちょっとだけ似ていることは…内緒にしておこう)