第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
(今度、しっかり聞かなきゃな…)
「娘として受け入れてほしい」それが、湖の望み
湖の望みを口頭で応えるだけなら、今すぐだって出来る
だが、今の信玄は国を持たない
越後に居候している身だ
湖にとっていつでも帰れる場所を作ってやる
それが、信玄が出来る事だと結論に至ったのだ
(それには、時間が必要だ。病魔は湖が押さえてくれる…一体何時まで可能なのかは、確認が必要な事があるが。健康になったとしても、国を取り戻すに時間がかかる…取り戻せたとしても、再度戦になる可能性が高い。国を確固たる物にし、湖の安らげる地を作る。三年だって足りない)
さすがに十二の姿では、二十四の精神年齢は不釣り合いだろう
と、そう考えたのだ
「…大丈夫かな?」
「何がだ?」
「湖、ちゃんと十五で胸とか出てくるかな?」
ごほっ、げほっ、げ…っ!!
「湖、兼続が茶で溺れ死ぬ…若造もか?あまりままでは言うな」
「何を?」
白粉の指摘に小首を傾げる湖
そして、咳き込みをどうにかしようとする二人
兼続は先ほどからずっとだ
いい加減苦しそうだと、白粉ですら思う
ふいっと視線を信玄に移すと
「それだけが、事情ではないのだろう?私は人ではないから詳しく解らぬが…湖が幸せになるなら私はそれでいい。必要ならおかか様への説得も手伝おう」
「…湖は湖だ。支障ない。佐助は元の年齢に戻れ。不十分な身体では、俺の忍びとして使えんからな」
「もちろんです。謙信様」
白粉に、謙信
そして、佐助
佐助は今十九だ
本来の身体に比べ、線がやや細い
十分大人な身体ではあるが、謙信と共に鍛えた身体ではないのだ
佐助にも自覚があった
「湖さん、昨日も言ったけど。そうゆう話は、男の前では止めようね」
「そうゆう?」
「お前、む、む、む、胸とかっ、馬鹿だろっ」
「話しちゃいけないの?でも、私、かかさまみたいな身体になりたいんだもん。かかさま、ふわっとしてて気持ちいいもん」
「私の身体が気持ちいいのか?」
今度は白粉が首を傾げながら自分の胸を見下ろせば、兼続はその場にしゅたんと立ち上がり、まるで風のように部屋を掛けだしていった
「白粉よ…お前も、発言を考えろ…兼続が不憫だ…」