第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「そうか」
湖は、信玄の相づちに頷いた
「お前も少しは成長してるんだな。ずっと一緒がいいと言うとばかり思ってた」
幸村が感心したようにぽつりと言う
「幸、失礼っ!そりゃ、ずっと一緒がいいよ。でも、かかさまにだって好きな人が出来てもいいじゃない?そうなったら、湖は邪魔しないように、ずっとは一緒にいないの。かかさまには、にこにこ笑顔で居て欲しいから」
ふふっと思い出したように笑う湖
そんな彼女の言葉に目を丸めたのは幸村だ
「…はぁ!?今、なんつった…あいつに、好きな奴…??」
「内緒。でも、もし上手く行ったら…湖のととさまは、二人になるね」
「それも楽しいかも」と信玄を見上げると
「なるほどな…うちの子は、自分の事以外には目敏いのだな」
と、別の事でうんうんと頷く姿が見えたのだった
間もなく兼続が呼びに来れば、広間にはすでに白粉も来ていた
「かかさま、寝られた?」
「あぁ。少しすっきりしたな」
「よかった…朝、起こしてごめんね?」
「気にするな」
白粉の横に座った湖は、信玄と白粉の間の位置に居た
向かいに幸村、佐助、謙信、兼続である
運ばれた朝餉を食べながら、湖は此処でも皆に報告をした
「あのね。私、ととさま…信玄さまの本物の娘になるつもりでいるの。いい?」
ぶーっ!!と勢いよく味噌汁を吐き、慌てて手で口を覆ったのは兼続だ
気管の変な部分でひっかかったのだろう咳き込んでいる
「構わん。信玄から聞いている」
「信玄様が望むならば、俺に言うことはない」
「兄として少々心配だけど…湖さんが望むなら構わないと思う。信玄様は人格者としても立派だし、一部を除いて」
「おーい、佐助ー。何か聞こえたぞー」
信玄は佐助に声をかけたが、その返答は幸村からだった
「そのとーりじゃねーか」と
「私は、湖の望みのままに」
最後に、白粉が目を閉じそう言った
「け、謙信様っ!その言い様…知っていたのでございますか!?幸村殿に佐助殿、白粉殿まで」
一人蚊帳の外にされた兼続は、この状況に頭が追いつかない
「な、なにゆえ…あぁ。ですが、織田に一手を打つことは出来ますか…」
ブツブツと、兼続は一人考え事だ