第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
現われるのは未発達な身体
白い傷一つ無い肌
ふんわりと香る香り
体型的に女をしての武器はまだ無いのに
(本当に天女のようだな…父親で無ければ、少々早いが食ってしまうのも考えてしまいそうに…この子は綺麗だ)
無頓着に着物を着ていく湖
その袷を整え、帯を締め
信玄は小さく息を付いた
「ととさま?」
「いや…なんでもない。あの事を、白粉に話してたのか?」
「すごい…ととさま。よく解るね」
そう言いながら、湖は自分の頬をつねった
「なにやってるんだ?湖」
「かかさまに、湖は顔に出るって言われたの」
「そうだな。わかりやすい」
「もぅ」っと少しふくれながらも、幸村を呼びに行った湖
「まぁ、今回のは表情で解ったと言うより、白粉と朝から散歩に行ったと言っただろう?先日、海に行ったときには話した感じが無かったからな。お前のかか様はなんと言っていた?」
「…は?あぁ、養女の件か?」
「ん。信玄さまが応えるなら、かかさまは反対しないって言われた」
信玄の胡座の中にストンと収まると、その身を預けるように湖は信玄に寄りかかる
「なんだ?その割にはすっきりしない顔だな」
「んー…かかさまね。自分は私が大人になるまでの母親役だって言ったの…血が繋がってないのは、小さい頃からちゃんと理解しているよ。かかさまは妖で、私は人だもの。人と妖は…ずっと一緒にいられないのかな…ととさま」
信玄も幸村も白粉の言葉の意味を知ってる
それは、仮初めの命のことだ
白粉は今、登竜桜から命を受け、仮初めの命を生きている
湖が成長しきるまでの
「大人になると、ととさまや、かかさまとは、皆離れないといけないの?信玄さまのととさまとかかさまは?幸のかかさまは?」
「離れないといけないわけでは無いな…いろんな事情や状況で、そうなる場合もあるが」
幸村は苦しそうに眉を潜めた
湖の質問に答えた信玄は、湖の身を軽く抱きしめ言葉を続ける
「白粉と一緒にいたいのか?」
「側にじゃなくてもいいの。かかさまは、かかさまの生き方。私は私の生き方があるもの…私に本当の親がいることは知ってるよ…でも、かかさまにぎゅってされないのは嫌…かかさまじゃなくなるのも嫌。湖のかかさまは、白粉なの」