第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
朝餉までの間、ドタバタは収まらなかった
まずは、湖の姿だ
兼続は後ろから見ていて気付かなかった
いや、佐助の羽織をかぶっている事は見て解ったが…
まさか、下が裸など湖が振り向くまで気付かなかったのだ
近くの佐助の部屋から、他の羽織も引っ張りだし
「佐助殿、申し訳ありません!お借り致します!」
と、丁寧に一言添えると同時に
湖を羽織でグルグルに包み、抱き上げ走り去る
部屋に連れ帰ったのだ
着物を着せるために
ただ、白粉は「休む」と言ったので呼ぶという頭は無かった
そこで運ばれたのは、信玄の部屋だ
「兼続よ…」
「も、申し訳ございませぬ。ですが、某では対応出来ず…仮にも信玄殿は父親。どうか、よろしくお願い致しますっ!」
言いたいことだけ言うと、兼続は真っ赤になって襖を閉め去った
信玄の部屋にいたのは、信玄と幸村だ
二人は抱えられ運ばれてきた上、佐助の羽織でグルグル巻かれた状態で察しをつける
幸村は頬を染めて
「ばっかじゃねーのっ!?お前、いくつだよ!」
とそっぽを向いて怒る
「おはよー。幸、ととさま。別に、佐助兄さまのとこで寝てたわけじゃないよー。かかさまと朝お散歩してたら、兄さまに呼ばれて屋根から降りたの。で、この姿に戻っただけだもん」
「っ、よけーに、馬鹿だろ!」
むーっと眉をしかめる湖に、本人は注意をしているつもりの幸村
「あー。幸、そんな言い方だとただ悪口言われているとしか湖には思われないぞ」
信玄は、頭の後ろを軽くかくと
「ひとまず着替えだ。湖、こっちに来い。幸は、ちょっと出てなさい」
「はーい」
「信玄様、そろそろ女中に任せた方がいいんじゃ」
「それが出来ないから、兼続はこっちに連れてきたんだろ?」
裸でうろつき、佐助の羽織でくるまった子の着替え
何事かと女中たちだって思う
唯一頼めるのは白粉だが、信玄のところへ来た時点で、部屋には白粉が不在なのだろうと予想が付いた
幸村も解ってはいるのだ
しぶしぶ部屋から出て行った
「ほら。着物だ」
信玄が出したのは、赤い着物と黄色の帯
湖の非常用とも言える置き着物だ
信玄に出された着物を見ると、湖は「はーい」と言いながらするりと羽織を肩から落とした