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【イケメン戦国】私と猫と

第28章 桜の咲く頃  四幕(十二歳)


義元は、喜之介が見せた絵「刀の化身」そのものだ
黒い髪、白い透けるような肌、目をそらすことさえ許されないような柔らかい、儚げな気配の瞳の容姿
幼い目から見ても、美しいと思えるのだ

「美しいは貴方でしょ?」

唇から指を離すと小さな声が聞こえた
未だに色付かない声
義元は少し目を見開き、だがすぐに瞳を細めると

「へぇ、まだ手つかずなのか」
「手つかず?」
「こら。義元、それ以上は止めろよ…湖は、俺の娘だ」

信玄の声に義元は小さく笑うと
湖の顎に駆けていた手を後頭部へ、反対の手で背中を支えるように自分の方へと引き寄せ、少し身を屈めると
耳元に口を寄せて囁いた

「戦乱の世では美しいものはあまりにも儚く壊されていく…自覚の無いまま野放しにして荒らされるくらいなら、俺が綺麗に咲かせてあげようか…美しいものをこの手で愛でて、守っていく…俺の魂は自由でいられる」

ぞわりと、小さな震えが背に走る

「湖」

とどめのように名前をささやかれ
突然這い上がってくる熱に、小さな甘い声が上がった

「ひぁ」

同時に湖の身体は義元から離され、すごい早さで謙信の胸に引き寄せられていた

「っひゃん」

真っ赤な顔で身を震わせる湖を片手に謙信が冷めた声を発する

「義元…」
「まだ何もしてない」

くすりと笑う義元
その声が残る耳を押さえ、湖が濡れた瞳で困惑する様子に信玄も「やりすぎだ」と義元を苦言した

「そう?そちらにとっても、都合が良いのかと思ったけど…止められなかったし」
「も、もがっ!…さ、佐助っいい加減離せ!おい!義元、ちび助に何しやがるっ!」
「無粋だなあ、幸村は」

手が離された幸村は、義元に手を掛けそうな勢いだ

「何度でも言おう。君は・・」
「っ、いいっ!もう、いいっ」

耳も髪の隙間から見える首も真っ赤にし、謙信の着物にしがみついた湖はふるふると震えたまま義元を止める

「ふふ…本当に愛らしい娘だね。信玄」
「そうだな…湖にはちょっかいを出すなよ」
「…本音を言えば離れるのは少し名残惜しいが…手をつける前ならまだ離せるよ。じゃあ、なにかあれば手を貸すから言ってくれ」

「守る価値のある美しさだから」と、義元はその場から去る

差し込む光で部屋が橙色に染まっていた
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