第7章 視察 (裏:謙信、政宗、家康)
「酌をしろ」
どんと座れば、湖に杯を持った手を突き出す謙信
「…その前に、怪我しているところを見せてください」
湖は、謙信の前で立ち膝をし、その手についた血筋を見た
「ただの擦り傷だ。それより、酒だ…」
謙信は自分で杯に酒を酌むと、それを一気に飲み干す
湖はその様子をじっと見つめていたが、しばらくすると口を開いた
「…私…謙信さまは、怖い人だと思ってました…冷たくて、心の冷えた人だと…でも、貴方は私を…守ってくれた。傷のことも、気にかけてくれていた…ありがとうございます」
酌を開けると、湖を一目見視線をそらす
そして「酌をしないのなら、行け…」そう小さく零した
「いいえ…まだ…私は、まだ用があります」
謙信は、湖を見ない
ただ追い返そうともしないように見えた
「傷の手当てをさせてください」
「たいした物ではない」
「それでもっ…させてくださいっ」
湖の姿を少し見て、ため息をつくと謙信は上衣を脱ぎ落とした
「…これでいいか…」
不機嫌そうに眉をひそめる表情に、湖は少し緊張しつつもその背に回る
昼ではあるが、この部屋の奥は光が届きにくく薄暗い
目を細め、指で背中を触るように確認すれば
彼の背中に数カ所、木の小さな破片が刺さっている場所はある
湖は、家康に貰った薬の蓋を開けると、木片を抜きそこへ軟膏を塗る
何度かその行為を行い、背中の確認を終えると次は、血の滴る二の腕へ
小さな傷だが深い
「…そこは抜いた、もう無いだろう」
謙信がそう言い、ぽとりとその場に捨てたのはガラスの破片
木箱の飾り細工であったろう鳥の羽のようだった
「すみません…」
湖はそう言い、その傷に口をつけると血を吸うように何度かきつく吸い上げた
謙信は始めそれにビクリと体を揺らしたが、湖の姿をじっと見てそのまま、好きなようにさせていた
(ガラスは…もうない…)
羽織っていた政宗の羽織で口を拭うと、家康の薬をそこへ塗る
謙信の傷の手当てに真剣な湖と、その様子をじっと見る謙信
謙信は、湖の姿を覚えるかのようにじっと見ていた