第7章 視察 (裏:謙信、政宗、家康)
■謙信編 (少し話が巻き戻ります)
「…さっさと城を出ろ。気が変わる」
最後は、湖を一目見部屋から出て行った
湖が政宗を見上げると彼はため息をつき、その手を緩めた
政宗の羽織をしっかりと前で合わせ、信長に一礼すると
「信長さま、すみませんっ!私、謙信さまにお礼と・・・・できれば、手当をしてきたいですっ」
信長もまたため息を吐きつつ
「…貴様は、貴様の気の済むようにしろ…一刻でここを出る。それまでには戻れ」
不服そうではあるが、口元は少し綻んでいるようにも見えた
「っはい!」
湖は、返事をすると謙信の去った方へ向かい走る
「…湖」
走り出した湖に家康は小さな容器を渡す
「…これは?」
「…軟膏…切り傷などに効くから」
「っ…ありがとうっ…家康」
走る湖の後ろ姿を見ながら、三人は苦笑していた
「…どうにも湖には甘くなる」
信長が口を開けば、
「御館様にしては、珍しい肩の入れようですね」
そう政宗が返す
「政宗さんだって、人の事はいえませんよ…まぁ、俺もだけど…」
家康は、木箱の破片を拾いつつ二人を見ずに言った
「貴様にしては珍しいな…」
(っ謙信さま…どこに…)
湖は、謙信の後を追っては居たが途中でその姿を見失っていた
キョロキョロ見回すと、しめられた襖の前に一滴の血痕があるのを見つけた
(…この部屋?)
それは、大名に仕立物屋が来ていると案内された部屋だった
(さっき…謙信さまと会った部屋…)
「…謙信さま…いらっしゃいますか?」
すっと、襖に指をかけようとすれば中から襖が開かれ、探していた人が目の前に立っていた
「…湖…何をしている?」
怪訝な顔で、湖を見る謙信
「…お礼を言えて無かったので、追いかけてきました…」
湖は、謙信を見つめ答える
「…礼を言われることはしていない…が…ちょうどいい、少々付き合え・・・」
謙信は、背を返し部屋の奥へと向かう
部屋には反物が転がったままだ
湖は、その部屋に入り襖を閉じると反物を踏まないように歩いた