第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
『おかしな事を言うな』
何が、おかしいのか
兼続が答えずに居れば、根元に横になった白粉の身体が薄い桃色の光に包まれた
『此奴は、当に死んでおる。助かるも何もない、仮初めの命だと聞いてはおらんのか』
謙信達の気配はまだ感じない
「…聞いておりまする。されど、某には…今の白粉殿は生きている…同じ刻を共有しておりまする…死者としては、考えられませぬ…」
光に包まれた白粉の呼吸が整い出せば、兼続の眉間の皺も少しずつ無くなる
『そうか…死者ではないか……』
フッと、光が消えるが白粉の目は開かない
『もう巨大化はするなと伝え…其方が見張れ。次は仮の器が壊れ、姿が人の目に映らなくなる』
「っ…承知致しました」
『連れて行け。さて、湖は…』
「眠っている」
兼続の後ろから謙信の声が聞こえた
兼続は謙信に一度頭を下げると、白粉を抱えその後ろに控える
その横や後ろから、武将達が白粉の様子を見て安堵の息をついた
『…儂の力を受け止めるには、人の器は小さすぎる。湖は、特殊なゆえ可能ではあったが、二度目は無い』
「なにか支障はでるのか…」
謙信の質問に登竜桜は答えた
『すでに受け入れた力は消えている。器が疲労しているが、5日程で目を覚ますだろう』
「そうか」
『湖に言伝を頼まれてくれるか』
12歳になった湖は、眠ったまま春日山上へと戻った
白粉も同様だ
何が起こったのかと、信玄を初め城中が騒然とした状況で彼らを迎えると、佐助は人払いされた部屋で信玄と幸村に事を伝えた
「…おいおい…なんだ、それは…」
「信じられねーけど…冗談じゃなさそうだな」
信玄と幸村は、事の次第に驚き
眠ったままの二人について心配をした
「湖さんは、おそらくあと四日ほど。白粉さんは、それほどかからずに目を覚ますと思いますが、一応大丈夫です」
「おい、佐助。その曖昧な答えはなんだよっ」
佐助の答えに、幸村が納得しない
「湖様は、起きれば支障は無いと申されました。が、白粉殿は負担が大きくかかり、これ以上の無理はしないようにと土地神様から言われております…これ以上、無理をすれば器が無くなると…」
兼続が代わりに答えると、信玄は「そうか…」と眉を潜めた