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【イケメン戦国】私と猫と

第28章 桜の咲く頃  四幕(十二歳)


聞こえないその鳴声
だが、なぜだろう
まるで、謝罪をするような、愛おしむような、切ない鳴声が聞こえたような気がしたのは、一人だけでは無かった

白粉はそれから目を離さなかった

『…さらばだ……悪かったな…』

黒い猫は、やがて形を留めることも出来ず
灰のようにさらさらと風に吹き飛ばされていった


何を過ったのか、それは白粉にしか解らない


ただ誰が見ても解ったのは、あの黒い靄は白粉には攻撃を仕掛けなかったという事だけだ


兼続の胸がちくりと痛んだ
それは、もう気のせいでは済まない
彼は自覚せざる得ない気持ちにこの時気付いたのだった


佐助が駆け寄って、白粉に抱えられた湖に着物を掛け包むと、白粉は獣から人に姿を変えた
元々色の薄い白粉であったが、今の顔色が悪いのは直ぐに解る

「白粉殿…っ」

すぐに駆け寄った兼続の支えを拒否することもない様子から、負担がかかっていることは解る

「…お力を分けて貰ったばかりでこれか…」

眉を寄せ苦笑する彼女の身体が少しだけ震えているのに気付いたのは、支えている兼続だ
すぐさま、その身を横に抱えれば

「土地神様の元へ急ぎましょう」

と、眉を寄せ白粉の反応も見ずに走り出す
その様子に、佐助をはじめ政宗も三成も目を離せずにいた

「…佐助、湖を寄こせ」

そして、この男も
謙信は佐助から湖を奪うように抱え、登竜桜の元へ引き返す

神落ちと呼ばれたあの獣が消えたこの場は、ただの森だった
先ほどまでの重暗い雰囲気はなく、ただザワザワと風が木々を揺らすだけ

三人も、謙信に連れ立って引き返す

まるで、何も無かったかのように









「土地神様っ…、登竜桜様っ!」

一足先に、登竜桜の本体
古木にたどり着いた兼続は、額から玉のような汗を流している
息荒く、古木に呼びかければ

『白粉を儂に寄り掛けて離れていろ』

と、登竜桜の声がした
指示通り、兼続は直ぐに白粉を登竜桜の幹に寄り掛けた
すると人型を保っていた彼女は、白い猫の姿で丸まることすら出来ずに横向きに転がった

「お、白粉殿っ!」
『…離れていろ…』

伸ばそうとした手は、登竜桜の声で止まり
額に皺を寄せ険しい顔をしたままの兼続が声を漏らす

「……助かり…ますでしょうか…」
『おかしな事を言うな』
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