第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
白粉が、驚いた様子のまま黒い靄を見る
きらりと、黒い靄の中で何かが光った
(あ…)
「かかさま、鏡…かな?なにか、背中に刺さってるのが光った…」
『鏡・・だと…?』
『いたしかたあるまい…』
登竜桜は、湖のそれに反応し靄に手を掲げると…
先ほどのようにふわりと舞った花びら
すると、ゆっくりと靄の形が整われ始めた
猫だ
今の白粉より二回り小さいが、山犬ほどの大きさの猫
そして、その背中には割れた鏡が突き刺さっているようにも見える
「鏡」それに覚えがあるのはこの場に三人
白粉、政宗、三成だ
それは、教(きょう)と名乗った僧侶が持っていた鏡に良く似ている
薄青い光を放つ鏡の破片だった
だが、あの鏡は半分燃え
半分は、顕如が破棄したはずのものだった
(あいつ…処分し損ねたのか…っ)
政宗が舌打ちする
(…っ)
先ほどまでぴくりとすら動かなかった身体が、一瞬動いたのだ
その様子に、他の武将達も気づき目を見開いた
顕如は、確かに鏡を処分した
森の奥で粉砕し、もう鏡として悪用されることの無いようにしたのだった
だが、その破片の一部が見落とされた
そこまで大きなものではない
覗きこんでも、人の顔をすべて映すことは出来ないだろう小さな破片
それを飲込んだものがいた
教によって白粉より前に式神にされた猫
白粉と一度だけ交えた黒猫だ
式神として操られ、とある村で暴れたあと捨てられた
長く持たないだろうと、教は鏡との繋がりを切り
自ら式神にした猫を捨てたのだ
彼は、捨てられた
そして、だんだん力が弱くなって
だが、殺される前にであった白粉の事を忘れることは無かった
なにもせず、ただひたすら歩き回って
鏡を見つけてしまったのだ
飲込んだ鏡は、黒猫のすでに崩れていた形を更に崩した
もう何者かも解らないような黒い靄になった
そのままいつ終わるとも解らない森を、神落ちとなって彷徨ったのだ
『…白粉』
『おかか様は、私の記憶で見知っているはずです…おそらく、あの鏡です』