第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「安土からも良い酒を集めてきましょう」
三成のそれに、登竜桜は目を細めて満足だと笑ってみせた
「三成くん、桜さまにお酒あげすぎないでね」
ぽすっと、三成の背中に寄りかかってきた湖
「湖様っ…」
ふいに感じるのは、湖の香りだ
先ほど…九つより香るようになった湖の甘い香りに、三成はうっすら頬を染めた
登竜桜はそんな三成の様子に気がつくも、特に指摘せずに湖のその額をつんと付く
『なんだ、湖』
そう登竜桜が面白そうに見上げるのだ
「ととさまが言ってたよー。適度の酒は健康になるが、過度の酒は身を滅ぼすって」
『儂は妖だ。人とは異なる…そういうことなら、あの男に言ってやれ』
そう言い指をさしたのは、謙信の方だ
「あーー。謙信さまっ!飲み過ぎ」
見れば、謙信の周りにはいくつもの酒壺があるのだ
三成の背に手の平をつくと、湖の体温が三成の背から遠ざかる
それに、小さく息を吐いた三成の横で政宗が「湖の香りだな…」と小声で言った
「えぇ…そうですね」
そう言って目を細めて湖を見れば、湖は謙信の横にある酒壺を抱えて怒っているのが見える
「無邪気なもんだな」
また政宗もそれを見て口角を上げるのだった
そうしてしばらく時が過ぎた
そろそろ戻ると、誰かが言い始めた時だ
「………動くな」
ぴりっと、空気がまるで静電気でも通るかのように変わった
「かかさま?」
全員に動きを制した白粉がその場を立つと、登竜桜もまた眉をひそめ白粉が向く方向を見た
「…湖…何があっても絶対に動くな」
『まったく…約束を早々に破ってくれたのか…』
二人がそう言い動き出すが、二人以外はどう意識をしても動く事が出来ないのだ
「おかか様」
『案ずるな…敷布の上に結界を張った。奴には見えておらん』
(何が起こってる…)
敷布に座る 謙信、兼続、政宗、三成、佐助
そして湖には、まだ状況が解らない
ただ、妖の二人が同じ方向に視線を向け睨んでいるのだけははっきりと解る
「かかさま、桜さま?」