第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
佐助は聞き覚えのある曲を懐かしく聞き
(これ、女の人…いや、こどもが歌うとまた雰囲気が違うな…)
原曲は、渋い声の男性のものだ
湖のような女子で、しかも優しげな声で歌われたのを聞いたことはない
(……ロック…と、いうよりポップスみたいに聞こえるけど…幸村が聞いたらどんな顔をするのだろうか…)
周りを見れば、謙信は「これはこれでいい」と言いたげに酒を飲み始めており
政宗は、口角をあげニヤリと面白そうに笑って湖を見ている
そして三成は、「佐助殿、この楽器はなんですか?」と新たに音が加われば、佐助に質問を投げかけるのだ
「…俺もそこまで詳しく無いのですが…トランペット…でしょうか…南蛮の金属で出来た角笛のような物です」
「なるほど…金属…ですか…」
三者三様だ
湖はと言えば、すっかり音に慣れた様子の動物たちと戯れながら別の歌を口ずさむ
今度は、打って変わって静かで優しい曲を
- こどもの頃から知っている
貴方の触れた指先が、とても温かいことを
小さな私には、それがあたりまえで、なんの疑問のなく
甘い甘い飴のように
ふんわりふんわり羽のように
ピアノの音に湖の声
歌う表情は、大人びた顔で
もう以前の湖そのものだった
『で…なにやら、面白い事を考えておるようだな』
誰に尋ねるでもなく発せられた登竜桜の声に、佐助が答えた
湖の裳着の件を
話を聞き終えると、登竜桜はおかしそうに腹を抱えて笑う
『お前達は、儂を誰だと思っているんだ…くく、くっ…』
いまだ腹を抱えて笑いが止まらない彼女は、胡座をかくとはぁーっと長いため息をして言う
『今まで何人かの人間と話をしていたが…貴様らのようにおこがましい…いや、言葉が違うな…厚かましい輩には会ったことがない…ここで祝いの席を設けたいだと?くくっ…』
だが、幾人かの胸の内を探れば
今の湖にとっての登竜桜
その立場的な意味でも、自分がいるこ場所でと考えてくれた事は伺えた
「おかか様?」
笑いが止んだ登竜桜に、白粉が声をかければ
『いいぞ。許可する。致し方無い…その折の人数もまぁ許そう…ただし、酒を倍は持って参れよ』