第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
『…お前は…知ってって黙っていたのか』
その反応と心の内が聞こえ、孫の男色を知っていて黙っている事が解った
以来、その孫とは会っていなかった
それから幾分もしないうちに政盛が他界したからだ
短い時間だった
森を守る人間には、古木の姿を見せ
自分の花に喜ぶ人間を可愛らしく思う
時には侵害してきた愚か者を食っているのに…
それでも、意識を持った頃からこの土地を離れず守るのは
ただの桜の木だった自分を人間が愛し続けてくれたから
自分より遙かに短い命の人間
そんな人間、政盛との時間は登竜桜にとって忘れられない時間だった
(あれから、何年だったのか…孫がじじぃになって現われたのだからな…)
「おかか様、おかか様?」
『ん…なんだ?』
白粉に呼ばれそちらを向けば、心配そうな表情を見せる
白粉は、登竜桜の力が弱まっている原因を知っている
だからこのような時間でも心配になるのだ
反応が無ければ余計に
(…やはり無理をされてはいませんか?)
口に出さずに問いかけられれば、登竜桜は白粉に笑みで返す
支障なしと
一瞬間を開けるも白粉は、登竜桜がそう言うならばと口を噤み兼続を紹介した
「某は、上杉家家臣 直江兼続と申す者。白粉殿より、土地神様…登竜桜様の事は聞いております。本日は…」
『よい。余計は挨拶は抜きだ…兼続…限られた時間ではあるが、娘(白粉)の事を頼む』
軽い会釈
白粉も、兼続も驚きの表情を見せるが
登竜桜はそこには構わない
ふいっと顔を向けたのは、湖の方だ
『湖のこともな…』
謙信に頭を撫でられ、三成と政宗と顔を合わせながら笑う湖を見て優しげに笑った
政宗に「もう一曲歌ってみろ」と施され、湖は「じゃあ…」と目を閉じた
すると、また聞こえてくる音達
「え…あれ…??」
そこでようやく音に気付いた湖は…
「にーさまっ、にーさま!音だーっ」
驚き、喜び、そんな表情で佐助に言うのだ
佐助は苦笑しながら「さっきも聞こえてたよ」と、登竜桜の方を向けば
気付いた湖は
「桜さま?これ、桜さまなのっ!すごいっ…素敵だね!!」
と、満面の笑みを向けるのだ
その素直な表情と言葉に、登竜桜は苦笑した