第28章 桜の咲く頃　 四幕（十二歳）

面白そうに鼻で笑った登竜桜
その視線を追った佐助は、首を傾げ兼続を見た

『あぁ。高梨な…勘違いするなよ。あやつの祖父だ。女好きだが、まっすぐで気持ちのいい男だった』

（やはり私の子だな…白粉）

視線が白粉に移れば、彼女と目が合う
心配そうにこちらを見返す白粉に、笑いを返し瞳を閉じる

『さて…湖の着物はあるのか？』
「あ…待っていてください。今取りに・・」
『まぁ、いい…』

「え？！よくな・・」と声を上げるも、登竜桜の指はもう鈴の額にあった
腕の中の猫は、そのまま人の姿になると…

「桜さまっ」

素肌のままの湖が現われる
彼女は登竜桜に抱きかかえられたまま、その人の首に腕を回し抱きついた

『あぁ。どれ…少し見ぬ間に大人になったか？』
「大人？なってないよ。湖、九つのままだよ？」
『くく…そうではない。心がだ……約束をしっかり守ったようだな』

約束
それは、お守りの事だとすぐに察した湖は、ふふっと笑って見せた

「さ、桜様。俺は、湖さんの着物を取りに行ってきます」
『不要だ。儂が出す』
「…なら、さっそくお願いします」

そっぽを向く佐助に、『何をこどもの肌を気にする必要がある？』と彼女はいうことを聞くそぶりは見せない

『どうせ成長させるのだ。それからでいいだろう…さて…こやつの心も、あっちで待つ奴らも騒がしいからな…さっそくだが…』

トンッ…

白い指先が、湖の額を押す
小さな桜の光と共に、成長する身体

「ん…」

抱えられていても解るのは、伸びた髪だ
立てばお尻も隠れるほどに伸びている

「あれ？むね…ふくれた？？」
『…お前は背ばっかりだな…』

薄い身体に、お世辞にもあるとは言えない胸
だが、そのラインは以前より確実に女らしくなっている

『ひとまず、着物だ』

湖を下ろすと登竜桜は、手を打つ
空間に響くその音と共に
湖の身が隠れる

「わぁっ、これ…かわいいねっ」

薄桃色の着物は、湖の髪飾りと同じ色だ

「すごく動きやすいよ」

くるりと回って見せ喜ぶ湖に佐助も視線を戻す

「その着物…」
『ん。いいだろう…それならば、馬も乗りやすいだろう？』

ぴょんぴょん湖が跳ねれば、鈴が音を立てる