第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「登竜桜様…土地神…」
「そうだ。おかか様は、この辺では一番力の強い者だろうな…」
兼続に答えていた白粉に謙信が口を挟んだ
「だろう…とは、どういう事だ?」
「…よその神が侵入しない限りは、という意味だ」
(余計な事を言ったか…それにしても、なぜこの男はすぐに気付くのか…)
「神々も移動をされるのですか?」
「力の強い神は、木、石、山…色々あるが本体が存在する。おかか様がそうであるように、大抵は本体に縛られるから長い間土地を開けることはできない。だがな、神の中には移動が可能な上、力が強いものもいる。友好的なものもいれば、厄介なのもな」
白粉がため息混じりにそう言う
その目線は、古木の側に歩いて行く佐助と登竜桜を見ていた
(おかか様、気配は戻っている…だが、力を分け与えたのだ…お疲れなはず…)
「…厄介…そのような神をなんと呼ぶのですか?」
三成だ
「…そうだな…「神落ち」と呼ぶな」
薄く悲しそうに笑った白粉が付け足す「私も、そうだった」と
三成と政宗が思い出すのは、巨大な血の猫
真っ赤な身体は今にも崩れそうで、だがその身体にある目だけが煌々としていた
苦しみながら操られるその身体は、誰が見ても悲鳴を上げているのが解った
「…なるほどな」
「……」
政宗は酒を飲みながらそう小さく相づちをうつ
「白粉殿?」
「…少し前の話だが、安土の彼らに迷惑をかけた」
白粉の時間は確かにあそこで止まった
「気にするな。お前は、恩をしっかり返してる」
「そもそも白粉様のせいではありませんよ。むしろ貴方は被害にあった身です」
話の読めない兼続とかわり、政宗と三成は真っ直ぐ白粉を見て言う
(たとえ仮でも)
「貴方は湖様の母者。どうか湖様が成長されるのを側で見守り続けてください」
三成が微笑む
政宗の口角も上がる
「あぁ」
返事をした白粉
それを兼続は複雑な表情で見つめていた
(昔の…白粉殿…)
なぜだろう
なぜいつも、安土の武将達の方が先なのだろうか
(湖様にしても、白粉殿にしても……)
考えても仕方の無いことなのに、なぜか胸を曇らせる現実
出会いに順番はない
なのに、自分の知らない過去を安土の武将達が知っていることが腹立たしいなど