第27章 桜の咲く頃 ひとやすみ(初恋の巻)
湖が「これがいい」と選んだのは…
「湖は、それが気に入りか?」
それは、謙信が湖に贈った桃染めの着物だ
「うん!謙信さまがくれた反物の。あと、ととさまの櫛もお気に入り」
そういい、小箱から出すのは信玄がいつか買ってきた櫛だ
「姫のお気に入りの一つになれて光栄だ…さて、その着物なら、帯は…」
帯を選んでいれば、部屋に戻ってきたのは白粉だ
白粉は、その様子を見て
「…外出か?…大丈夫か?」
と信玄に尋ねた
「平気だ。謙信と湖が城下の仕立屋に行く。一応護衛も影から入れる」
「ごえい?」
首を傾げた湖に、誤魔化すように
「着物を選びに行くんだよな?十二の」
と微笑んだ
湖は、それに「うん」と嬉しそうに頷き着物を着替え始める
「…謙信が一緒ならば大丈夫か…湖、楽しんでこい」
「うん!かかさまは?今日はかかさま何をしているの?」
「佐助と少々な…」
「…危ないことしてない?」
「大丈夫だ。心配するな」
白粉は、湖の頭を一撫ですると
「佐助の「便利な笛」は必ず持って行けよ」
と、首元にかかった笛の紐を確認する
「あ。お気に入り。忘れてた。兄さま手作りの笛。湖のお守り」
「笛?」
「信玄さまには、初めて見せるね。じゃーん!兄さま、お手製の笛です!」
見せられたそれは、小さな縦笛のようだった
首から掛けても重さを感じなさそうなそれを指で摘まむと、
「…綺麗に整えられてるな…やるじゃないか、佐助のやつ」
「これね、吹いたら村正も飛んでくるんだよ」
「なるほどな…そうだな、湖、これはどんなときも身につけていろよ」
「うん」
湖の桃色の着物に合わせ、それより濃い朱色の帯を結んでやると、湖はくるりと回って信玄と白粉に見せた
チリリンと、桃色の髪飾りが揺れる
「どう…かわいくみえる?」
それをみた信玄と白粉は、
「湖は何を着ても可愛いな」
「可愛いな…謙信から絶対離れるなよ」
と、両親に褒められ湖もまんざらではない笑みを浮かべるのだった
そこに、開いてあった襖から姿を見せたのは謙信だ
兼続の言った時間よりもずいぶん現われた謙信に、湖は驚いた