第27章 桜の咲く頃 ひとやすみ(初恋の巻)
「あのね…信玄さま」
=初恋は、見守る瞳=
「湖様―」
兼続の湖を探す声が聞こえた
信玄と話をしていた湖は、「あ」と声を上げると
「兼続と、お約束したの忘れてた」
と舌を出すのだ
それに苦笑する信玄
「はーい!ここでーすっ」
兼続の姿も見えないのに、声のする方向に手を振って大きな答えで答える湖
(こうゆうとこは、まだこどもなのになぁ)
信玄は、その背中を見ながら先ほどの事を思い出した
「あのね…謙信さま…湖のことね、時々優しい目で追ってるの。それに気付くとね、どきっとするの…その目をもっと近くで見たくなる…」
(恋だろうな。しかも初恋ってやつだ)
まだ九つの湖は、それを理解していなかった
そのまま曖昧なままでも良かったのだろうが…
(まだこどもだ。「好き」で十分だろ)
そのままでも支障はなさそうだが、もうすぐ十二になる湖
(「恋」がどんなものなのか、触りだけでも知っておくといいだろう…)
「湖様、そちらにおられましたか」
「ごめんね、兼続。今日のご用事ってなんだっけ?」
「はぁ… 湖様、本日は謙信様と・・」
兼続が謙信の名前を出した瞬間
ぶあっと赤みをさした湖の顔
それに、兼続も言葉を止める
「…湖様…?……も、もしや・・」
(これは、もしかすると…謙信様に…)
自分の事には疎いのに、他には感が良いのか
兼続は湖のそれを直ぐに察する
(このような反応今までは無かったこと…これは、もしや…初恋…)
ほんのりと兼続の頬にも赤くなれば、それに気付いた湖がパンパンと自分の頬を打つと
「え、えっと、謙信さまと…なに?」
「は、はい。謙信様と城下の仕立屋に行かれるご予定・・」
(こんな時に、殿は…っいや!この期を逃してはならんっ!!)
予定は確かにそうだったが、傘下の大名が突然謁見に現われ
予定をずらさざる得なくなったのだ