第27章 桜の咲く頃 ひとやすみ(初恋の巻)
可愛い声を上げて口を塞ぐ湖
「信玄様!!じゃれるのも大概にっ」
それを兼続が真っ赤な顔で止めれば、そこに別の人物が現われた
三成だ
「湖様?信玄様?」
眼鏡をかけ、本を持って向かってきたのだ
「石田殿、書庫に行っておられましたか」
「ええ。出入りを許していただけので。面白い文献が色々ありますね」
「それは良かったです。ですが、」
「解っています。領地内情報等の書かれた文献は触れておりません。付き添っていただいた家臣の方もおります」
「はい。それならば」
三成が持っていたのは、唐の文献のようだ
「ところで…湖様は一体何をされているのですか?」
「あっ、信玄様」
忘れていたように兼続が再度信玄の方を向く
「んー?」
信玄は、未だ湖を囲ったままだ
「もぅっ!ととさまっ」
ぺしっと音がすれば、湖の小さな手が信玄のおでこを打った
それに信玄は目を丸め、腹に回っていた手が緩む
その隙に、信玄の腕から脱出した湖は、顔を赤らめながら信玄を指さすのだ
「おいたしすぎっ!湖、くすぐったいのっ!」
びしっとさされる指先は、信玄の鼻先にある
「湖様、指を指すのはおやめくださいっ!失礼ですぞっ」
兼続は解放された湖に安堵するも、その指さしに今度は苦言を指す
片手を腰に、まっすぐ相手を指さし、怒る様は
「っ…」
三成には、見覚えがある
(これは…っ)
ぴくりと肩が揺れる
兼続の慌てる様子と、三成の揺れる身体は信玄の視界に入っている
(石田 三成?)
なんだ?とその様子をみれば、湖も信玄の視線に気付き後ろを向く
そうして初めて、先ほど自分が名前を挙げた人物がいるのに気がつき、急ぎ指を引っ込めたのだ
「み、三成くん?!」
怒っているのとは別の赤みをさす頬
「まったく、湖様。指をさすのは、失礼でございま・・石田殿?」
湖に注意をしていた兼続も自分の隣で小さく震える三成に気がついた
「…三成くん??」
湖もだ
湖に呼ばれれば、三成は更にびくっと反応した
そして、その場に膝をつくと本を置き、片手を握って床に置く
もう片方は先ほどから口元に運ばれたままだ